ティグレ族(読み)ティグレぞく

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ティグレ族」の意味・わかりやすい解説

ティグレ族
ティグレぞく

(1) エリトリア中部・南部およびエチオピア北部のティグレ地方に住む民族。Tigrayあるいは Tigrai,Tegrayと綴る。エリトリアではティグリニャ族 Tigrinyaとも呼ばれるが,セム語の言語学者によると,"-nya"の記述はエチオピアの実務用言語であるアムハラ語で「~の言語」を意味する接尾語である。いずれにしても両国間の政治的状況から,呼称に関する合意は困難といえる。使用言語はセム語系のティグリニャ語で,古代のゲエズ語やエリトリア北西部に住む別のティグレ族(下記 (2) 参照)が話すティグレ語とも関係が深い。セム語族末裔であるティグレ族はこの地のクシ語系諸族と混血し,ティグレ地方にキリスト教を信奉するアクスム王国を建国した。定住型の農耕民族で,隣接するアムハラ族と同様,大半がエチオピア正教を信仰する。ティグレ族とアムハラ族は宗教的・文化的に類似しているものの,言語の違いや政治的な対立から武力紛争に発展することもある。21世紀初頭時点で,エリトリアの人口の約半数,エチオピアの人口の 10%弱をティグレ族が占めている。
(2) エリトリア北西部および隣国スーダンのかぎられた地域に住む民族。Tigreあるいは Tigray,Tigraiと綴る。使用言語はセム語系のティグレ語で,古代のゲエズ語やティグリニャ語とも関係が深い。最大グループは歴史的なベジャ族の一派アメル(ベニ・アメル Beni Amer)で,彼らイスラム教徒はスーダン東部においてスーフィズムのミルガーニー教団の優位性を受け入れた。もう一つのベト・アスガデ Bet-Asgadeはキリスト教からイスラム教に改宗した集団である。スーダンにおいて特徴的な遊牧民の生活はほとんどティグレ族によって担われている。20世紀終わり時点でエリトリアでは人口の 3分の1近くをティグレ族が占めている。

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世界大百科事典(旧版)内のティグレ族の言及

【エチオピア】より

…一般に80の部族が,方言を含めて100以上もの言語を話すといわれている。そのなかで最も有力なセム語系のアムハラ族と,近縁のティグレ族が人口の30%を占め,おもに中央高原と北部高原に居住している。亜熱帯の南部地域に居住するオロモ族(ガラ族)はクシ語系に属し,人口では最大で,アムハラをやや上回っている。…

【エリトリア】より

…わずかな平坦地に農耕が行われるにとどまる。【鈴木 秀夫】
[住民,社会]
 住民はティグレ族Tigre,アファル族,ベジャ族,サホ族などの複数の民族から構成される。主要言語はティグリニア語,アラビア語であり,いずれも独立後の公用語となっている。…

※「ティグレ族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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