スーフィズム(読み)すーふぃずむ(英語表記)ūfism

日本大百科全書(ニッポニカ) 「スーフィズム」の意味・わかりやすい解説

スーフィズム
すーふぃずむ
ūfism

イスラム神秘主義のこと。この語は「神秘家」を意味するスーフィーūfīにイズム-ismが付加されてできた語で、アラビア語では「タサッウフ」taawwufという。この語もūfīから派生したものである。このūfīの語源については諸説があるが、羊毛を意味するスーフūfに由来するとするのが通説である。スーフィーとは元来、迫りくる終末と地獄の業火(ごうか)におびえ、世間の虚飾を離れ、贖罪(しょくざい)と懺悔(ざんげ)のしるしとして羊毛の粗衣を身にまとい、禁欲と苦行のなかに生きようとする禁欲家をさしていた。このことは、スーフィズムと禁欲主義の密接な関係を示すが、両者は異なる。スーフィーは、恐怖よりも神への全き無私の愛を説く。このような愛は、自我意識の完全な消滅(ファナー)による神との二元的対立を超えた神秘的合一体験によって初めて可能となる。神以外のすべてを否定してそのような境地に到達するための修行が神秘階梯(かいてい)(マカーマート)であり、禁欲や清貧改悛(かいしゅん)、聖法の順守などとともにこのなかに位置づけられる。

 スーフィーは預言者ムハンマド(マホメット)の啓示体験のなかに神との「合一」の原型をみるが、歴史的にはスーフィズムは8世紀後半以降の現象である。その発生にはさまざまな外的影響が考えられるが、内在的要因としては神学的思弁による神の超越性の強調と聖法の形式主義化などがある。スーフィズムの歴史は三期に分かれる。第一期は、神との「合一」を目ざす実践を強調し、体験や境地を詩や短句や行動によって大胆に表現し、またスーフィーの言動がときにウラマー(聖法学者)との対立を招いた時代。ラービア(714―801)、ビスターミージュナイドハッラージュなどがこの期の代表。第二期は、修行の方法を整理し、またスーフィズムが聖法に反するものでないとしてそれを弁護する理論家の出た時代。ムハーシビー、サッラージュ(?―988)、マッキー(?―998)、クシャイリー(986?―1072)、ガザーリーなどがその代表。第三期でスーフィズムは逍遙(しょうよう)学派の哲学と結合して思弁化し、体系的世界観として確立する。スフラワルディーイブン・アラビーがその代表。他方では、12世紀後半からスーフィズムは教団(タリーカ)として組織化され、聖者崇拝と相まって広く民衆の間に浸透していく。このような民衆化はスーフィズムの呪術(じゅじゅつ)化を招き、自我の否定と内面への沈潜は自主性と外界への関心を失わせ、スーフィズムはイスラム世界の沈滞を正当化するイデオロギーとなり、近代に至って批判を受けるようになる。

[中村廣治郎 2018年4月18日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スーフィズム」の意味・わかりやすい解説

スーフィズム
al-taṣawwuf

イスラムの神秘主義。この派の初期の行者 (スーフィー) がスーフ (羊毛) の粗衣をまとっていたのでこの名があるとされている。8世紀末にイラクで初めてこの名が使われ,11世紀にすべてのイスラム神秘主義者に対し用いられた。イスラムは実際的な宗教として発展したが,初期には禁欲主義的で現世よりも来世に幸福を求める面が強かった。この傾向を受継いだのがスーフィズムで,修行や思索の助けをかりつつ神を愛することによって神と一体になる無我の恍惚境を目的とするにいたった。この神観念の変化は,指導層がウラマー (学識者) から9世紀以後に民衆の宗教者に移ったことに対応する。 13世紀以降は,修行者が一種の僧院生活を行うようになった。スーフィズムにはギリシア思想やユダヤ教,キリスト教,インドの神秘主義などが影響を与えている。

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