改訂新版 世界大百科事典 「ベジャ族」の意味・わかりやすい解説
ベジャ族 (ベジャぞく)
Beja
スーダン民主共和国北東部の部族。居住地は約30万km2の砂漠,半砂漠,サバンナの地域。人口約62万。おもにビシャリン,アマラル,ハデンドゥワ,ベニ・アメル,ハレンガの5グループからなり,それぞれ異なった系譜認識のうえに立ち,戦争時にも同盟を組むことはめったにない。唯一の共通性は,一つの言語トゥ・ベダウィを話すことである。起源に関する明確な歴史的証拠はないが,この地域とくに紅海側の山岳地域の古代住民が,古代エジプト王朝,アクスム王国,イスラム以前のアラブ等と接触があったらしい,という歴史的根拠はいくらか残っている。イスラム教徒が642年エジプトを征服した後,多くのアラブがベジャの地に入り込むようになった。上エジプトやナイル川沿いのアラブ居住地をベジャはしばしば襲撃したが,その後,通婚によるベジャのアラブへの同化およびイスラム化が徐々に進行した。とくに1000-1600年ころこの現象が起こり,この時期に現在のベジャが形成されたと考えられている。そして,今日アラブに出自をもつと伝えられるベジャのグループは,ベジャ社会内で上位を占めている。ベジャの5グループのうち最も規模の大きいハデンドゥワは,9世紀ころすでに存在していた。彼らは現在ベジャ地域の中央部で,おもにラクダ,牛,ヤギに依存した遊牧生活を営み,食物は乳製品およびモロコシのかゆである。1923年以来灌漑計画が企てられ,ワタやヒマが換金作物として栽培されるようになった。しかし,それに対してハデンドゥワは西アフリカ出身の労働者を雇い,自らは遊牧生活を続けている。彼らの社会は内婚を基盤とする父系制であるが,女性間の結びつきも重要である。
執筆者:福井 勝義
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報