日本大百科全書(ニッポニカ) 「トリトン(原子核)」の意味・わかりやすい解説
トリトン(原子核)
とりとん
triton
水素の同位体であり、1個の陽子と2個の中性子とからなる原子核で、三重水素原子の核をなす。トリトンは、原子炉の中で重水素が中性子を吸収してγ(ガンマ)線を放出する核反応によって生成される。しかし、安定核ではなく、半減期12.4年でβ(ベータ)崩壊し、陽子2個と中性子1個とからなるヘリウム原子核の同位体に変わる。天然には普通の水素原子核(陽子)の約1018分の1ぐらい存在するが、これは宇宙線による大気中での核反応でつくられたものである。トリトンが注目されるのは、陽子を吸収して特別に安定なヘリウム原子核を生成する核融合反応や二重水素との核反応によって、それぞれ2000万、1760万電子ボルトという大きなエネルギーが解放されることが知られているからである。核融合エネルギーを利用する方途を探る場合に、欠かせない原子核とみなされている。
[坂東弘治・元場俊雄]