トリトン(読み)とりとん(英語表記)Triton

翻訳|Triton

デジタル大辞泉 「トリトン」の意味・読み・例文・類語

トリトン(Triton)

ギリシャ神話で、海神ポセイドンの息子。上半身は人間、下半身は魚形または蛇形の姿をとる。
海王星の第1衛星。1846年に発見。名はに由来。海王星系で最大。海王星の自転と逆向きに公転するため、潮汐力で公転速度と軌道が低下しつつあり、将来は海王星に衝突すると思われる。表面では火山活動がみられ、液体窒素・液体メタンなどを噴出している。直径は約2700キロ(地球のおよそ0.2倍)。平均表面温度はセ氏マイナス235度。

トリトン(triton)

水素同位体であるトリチウム原子核。1個の陽子と2個の中性子とが結合したもの。

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精選版 日本国語大辞典 「トリトン」の意味・読み・例文・類語

トリトン

  1. ( [英語] Triton )
  2. [ 一 ] ギリシア神話の海の神。ポセイドンの子で、下半身が魚形(または蛇形)で上半身は人間の姿をとる。海が穏やかなとき、水上に現われてほら貝を吹く。
  3. [ 二 ] 海王星の第一衛星。母惑星の自転方向と逆方向に公転する。一八四六年に発見。

トリトン

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] triton ) トリチウムの原子核。一個の陽子と二個の中性子から成る。記号T、t 三重陽子

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「トリトン」の意味・わかりやすい解説

トリトン(天文)
とりとん
Triton

海王星の最大の衛星。名前はギリシア神話の海神ポセイドン(海王星の名の由来)の息子トリトンに由来する。1846年10月にラッセルWilliam Lassell(1799―1880)により発見される。太陽系最大の逆行衛星(母星の自転とは逆向きに公転する衛星)である。逆行衛星のため、海王星との潮汐(ちょうせき)作用によって軌道が徐々に低くなり、数億年後には砕けて海王星に落下するか、輪(リング)になると考えられている。トリトンは、太陽系の衛星のなかで7番目の大きさで、準惑星冥王星やエリスよりも大きい。

 トリトンの平均公転半径は35万0410キロメートル、公転周期は5.88日、離心率は0.00、軌道傾斜角(軌道面と母星の赤道面の間の角度)は157.3度(つまり、逆行)。直径は2706キロメートル、質量は2.96×10の22乗キログラム、自転周期は5.88日。逆行衛星であることから、エッジワース・カイパーベルトから海王星の重力により捕獲されたと考えられるが、離心率がほぼ「0」(円軌道)であることなど謎が多い。表面には薄い窒素とメタンの大気があるが、マイナス235℃の極低温の世界で凍り付いていると思われる。海王星との潮汐作用で衛星の内部が加熱されたことによって引き起こされたと思われる火山活動もみられる。1989年に惑星探査機ボイジャー2号がトリトンの近接撮影に成功している。

[編集部 2022年10月20日]



トリトン(原子核)
とりとん
triton

水素の同位体であり、1個の陽子と2個の中性子とからなる原子核で、三重水素原子の核をなす。トリトンは、原子炉の中で重水素が中性子を吸収してγ(ガンマ)線を放出する核反応によって生成される。しかし、安定核ではなく、半減期12.4年でβ(ベータ)崩壊し、陽子2個と中性子1個とからなるヘリウム原子核の同位体に変わる。天然には普通の水素原子核(陽子)の約1018分の1ぐらい存在するが、これは宇宙線による大気中での核反応でつくられたものである。トリトンが注目されるのは、陽子を吸収して特別に安定なヘリウム原子核を生成する核融合反応や二重水素との核反応によって、それぞれ2000万、1760万電子ボルトという大きなエネルギーが解放されることが知られているからである。核融合エネルギーを利用する方途を探る場合に、欠かせない原子核とみなされている。

[坂東弘治・元場俊雄]


トリトン(ギリシア神話)
とりとん
Triton

ギリシア神話の海の神。ポセイドンとアンフィトリテの子で、下半身は魚形(または蛇形)で、上半身は人の姿をとる。普通、海底の宮殿に住むとされるが、ボイオティア近辺の河川がもともとの故地であるという。海が穏やかなときには、海面に浮かび上がってほら貝を吹き鳴らす。伝説では端役でしか登場しないが、その本来の神格はかなり古く、トリトンという名は水と深い関連をもつと考えられている。早くからポセイドンの配下に属しているが、時代が下るにつれ、アフロディテやネレイスたちにまつわりついて忠勤に励むトリトンの一家が現れ、その名も複数形トリトネスTritonesになる。またヘレニズム時代以降は、トリトンはアフリカのリビアにあるトリトニス湖に住むと考えられた。彼の姿は古くから壺絵(つぼえ)やレリーフに好んで取り上げられている。

[伊藤照夫]

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改訂新版 世界大百科事典 「トリトン」の意味・わかりやすい解説

トリトン
Triton

海王星の第I衛星。1846年,W.ラッセルによって発見された。軌道半径35万5250km(海王星半径の14.47倍),公転周期5.87683日。半径は1353km,質量は2.97×1025g(海王星の2.89×10⁻4倍),平均密度は2.88g/cm3と求められる。一般に大型の衛星は母惑星の自転と同方向に公転しているが,トリトンは逆転している。海王星のもう一つの衛星であるネレイドは順転であるが,離心率0.7493というきわめていびつな楕円軌道をもっており,遠い過去に海王星周辺で何かが起きたことを示している。惑星探査機ボイジャー2号の観測によれば窒素からなる大気があり,大気圧は0.01ミリバール,有効温度は-236゜Cである。表面の地形は南半球は複雑であるが,北半球は比較的のっぺりしている。表面には火山があり,液体窒素がガスとともに噴出して風下に流れた跡がある。
執筆者:


トリトン
Tritōn

ギリシア神話で,半人半魚の姿をした海神。ポセイドンの子。法螺貝(ほらがい)を吹き鳴らして波を鎮めると考えられた。ローマ建国の祖アエネアスのらっぱ手ミセヌスMisenusは彼に技競べを挑んだため,その名を残したミセヌム岬近くの海で溺死させられたという。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「トリトン」の意味・わかりやすい解説

トリトン
Triton

ギリシア神話の海神。ポセイドンアンフィトリテの息子とされ,上半身は人間,下半身は魚の形,ほら貝を吹鳴らす姿で表わされることが多い。他の海神たちと同様,予言の能力をもつと考えられた。1柱でなく,多数のトリトンがいて,群れをなしポセイドンに従うとみなされることもある。

トリトン
Triton

海王星の,内側の衛星。 1846年 W.ラッセルが発見。光度 14等,直径約 2700kmで衛星中最も大きなものの一つ。公転周期は5日 21時間3分で,逆行している。軌道面は海王星の赤道に対して 159.9°傾いている。

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化学辞典 第2版 「トリトン」の解説

トリトン
トリトン
triton

[同義異語]三重陽子

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デジタル大辞泉プラス 「トリトン」の解説

トリトン

北一食品株式会社が展開する回転寿司屋のチェーン。

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世界大百科事典(旧版)内のトリトンの言及

【海】より

…海の支配者は最高神ゼウスの兄弟のポセイドンで,武器としても漁具としても使われる三つ股の矛を持ち,地震や津波の神としても恐れられた。彼の妃はネレイデスの一人であるアンフィトリテAmphitritēで,この夫婦の息子で下半身が魚の形をしたひょうきんな海神トリトンも,ネレウスやその同類のプロテウスやグラウコスなどと同様に,非常な知恵と変身の能力の持主である。日本神話の塩土老翁(しおつちのおじ)も,変身の能力をもつ知恵者の海神であるという点で,これらの同類と認めることができる。…

【人魚】より

…この神は豊饒をつかさどり,ギリシアのアフロディテやローマのウェヌス(ビーナス)の原形となった。ギリシアでは,海の精ネレイスNērēisたちや海神トリトンが人魚の姿を取る。そして後代になると,これらの神々に形態が類似する海獣などが同じ名称で呼ばれるようになり,神話的存在と実在の動物との混同を促進させた。…

【衛星】より

…天王星の衛星は母惑星の赤道面が98度も傾いているため,惑星軌道面に対しては大きな傾き角をもつ。海王星の内側の大きな衛星トリトンは逆行しており,外側の小さな衛星ネレイドは順行ではあるが,0.75というとびぬけて大きな離心率をもっている。一説によれば,冥王星はもと海王星の衛星であり,なんらかの異変によって海王星から逃げ出した。…

※「トリトン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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