翻訳|neutron
素粒子の一つでニュートロンともいう。電荷がなく中性の粒子の意味である。現在の素粒子論では、中性子は電荷2/3のuクォーク1個と-1/3のdクォーク2個からできていると考えられている(電荷は陽子のそれを単位とした)。中性子の総電荷はないが、内部では正負の電荷が分布しており、その広がりは約10-14センチメートルである。中性子の質量は1.67491×10-24gで陽子の1.0014倍である。スピン1/2でフェルミ統計に従い磁気モーメント-1.91304eħ/2mpcをもつ。ここで、eは電荷単位、mpは陽子質量、cは光速、ħはプランク定数hの2π分の1を表す。単独で存在する中性子はβ(ベータ)崩壊により電子と反中性微子(反ニュートリノ)を放出して約10分間で陽子に変わる。
ベリリウムにポロニウムから放出されるα(アルファ)線を照射すると、透過性の強い放射線が得られる。キュリー夫妻はこれを強いγ(ガンマ)線であると考えたが、イギリスのチャドウィックはこの放射線と原子核の反応についての研究から、これが電荷をもたずほぼ陽子と同じ質量をもつ新しい粒子と考え、中性子と名づけた(1932)。この発見を知ったハイゼンベルクは、原子核が陽子と中性子からつくられているとする理論を発表(1932)し、今日の原子核構造理論の基礎を築いた。中性子は電気的性質を除けばほぼ陽子と等しく、陽子とともに原子核の構成要素なので、まとめて核子ともよばれる。原子核は原子番号と質量数で決まるが、それらはそれぞれ、陽子の個数と、陽子と中性子の個数の和のことである。
超高密度の物質中では電子の圧力が非常に大きくなり、β崩壊の逆過程により電子と陽子が反応し、中性微子を放出して中性子に変わったほうが安定となる。ある種の星では進化の過程でこの現象が生ずると考えられている。この中性子のみからできた星を中性子星とよぶ。パルサーがこれであると考えられている。
中性子は電荷をもたないので物質中の透過性がよく、中性子線は結晶構造の研究に使われる。X線散乱は電子によって生ずるのに対し、中性子線の散乱は原子核や磁場によって生ずるので、X線回折と違った情報が得られるため重要である。中性子線(中性子の流れ)はベリリウムにα線を照射しても得られるが、加速器でつくられた陽子流や重陽子流をそれぞれリチウムや重水に照射してもつくれる。また原子炉からも強い中性子線が得られる。中性子爆弾は、熱核融合爆弾(水爆)の一種で、爆発力を抑え中性子の発生を強化したものであり、建物の破壊と残留放射能を抑え、おもに人の殺傷を目的としている。
[益川敏英]
ニュートロンともいう。強い相互作用をする素粒子(ハドロン)の一種で,電荷0,質量940MeV,スピン1/2のフェルミ粒子。異常磁気モーメントをもち,その値は核磁子の-1.9131倍である。ふつうnの記号で表される。陽子とともに原子核の構成要素の一つであって,両者を核子と総称する。1932年にジョリオ・キュリー夫妻は,放射性元素から出るα線をベリリウムにあてるときにでる非常に貫通力の強い放射線が水素原子とたいへん強く相互作用することを見つけ,J.チャドウィックは,この放射線を構成する粒子が電気的に中性で陽子とほとんど同じ質量をもつと考えて,はじめて中性子の存在を明らかにした。中性子は陽子とともにアイソスピンの二重項をなし,またゲル・マンらのSU(3)対称性の八重項にも分類される。現在では中性子はもっと基本的な粒子であるクォーク3個の結合系からできていると考えられている。なお,中性子の平均寿命は約103秒で,電子と電子中性微子の反粒子を放出して陽子に変わる。
→素粒子
執筆者:猪木 慶治
中性子はそのエネルギーが0.5MeV以上,1~500keV,1keV以下であるとき,それぞれ高速中性子,中速中性子,低速中性子とよばれることがある。またとくに媒質と熱平衡にある中性子集団を熱中性子という。常温ではその平均エネルギーは0.025eV程度である。さらに液体窒素や液体水素などの冷媒により常温より低エネルギーにされた中性子を冷中性子という。
媒質中の中性子による核反応率Rは,媒質中の原子数密度N/cm3,原子核の核反応断面積σ(cm2),その場所の中性子数密度n/cm3,その速さvcm/sに比例してR=Nσnvで与えられる。そこでNσ=Σ,nv=φとおいてΣ,φをそれぞれマクロ断面積,中性子束という。これらを使えばR=Σφとなる。
中性子と一般の物質との相互作用には,その原子核による散乱と吸収とがある。散乱はあらゆるエネルギーの中性子で起こる。吸収には中性子が核にとらえられ,結合エネルギーに相当するエネルギーがγ線として放出される捕獲(中性子捕獲)と,中性子を吸収した原子核が別の粒子を放出したり核分裂したりする核変換とがある。捕獲は1keV以下のエネルギーで起こりやすく,おのおのの原子核に特有な中性子エネルギーのところでとくに顕著になる。これを共鳴捕獲という。1keV以上の中性子では一般に捕獲は散乱に比べて無視できるほど小さい。核変換は10B(n,α)7Li,27Al(n,p)27Mgなどのように特定の原子核でのみ高い頻度で発生する。核分裂は,ThやUなど重い核で発生するが,低エネルギー中性子でも核分裂するのは,235U,233U,239Puなどごく限られた原子核だけである。これらは核分裂性原子核と呼ばれる。
核分裂性原子核が中性子を吸収すると多くの場合核分裂し,2~3個の中性子を放出する。これを核分裂中性子という。このため核分裂性物質を含んだ媒質中では核分裂の連鎖反応の起こる可能性があり,この連鎖反応を制御しつつ持続させる装置が原子炉である。原子炉では,発生した中性子は炉心から漏れ出てしまったり,構造材料に吸収されることなく,なるべく有効に核分裂または転換に使われるべきであり,そのほうが臨界を維持するのに必要な核分裂性物質が少なくてすむ。このため中性子のむだが少なく,つまり原子炉内で発生する中性子数と,炉内で吸収され核分裂または転換に使用される中性子数の差の少ないことを中性子経済がよいということがある。
中性子は,原子炉の起動時に必要になるほか,中性子回折など物質構造分析手段,あるいはその強い透過力を利用した中性子ラジオグラフィーに使われる。中性子の発生法には加速器を利用する方法,原子炉を利用する方法,人工放射性同位体を利用する方法などがある。コッククロフト=ウォルトンの加速器を用いて重陽子を加速し,三重水素を含んだ金属板にこれを入射することにより,3H+2H→He+nという反応を起こさせる方法は,小型の中性子発生装置としてよく使われている。また加速器により得た高速電子線を鉛やウランのような重い原子核からなる媒質に注入すると,電子線の減速によりγ線が発生し,このγ線と媒質の原子核の(γ,n)反応により中性子を得ることができる。放射性同位体を用いるものではRa,Po,Puの発生するα線によるBeの(α,n)反応を利用したPu-Be混合物,Ra-Be混合物,Po-Be混合物,124Snの娘核の124Teの放出するγ線によるBeの(γ,n)反応を利用したSn-Be中性子源,そして252Cfなど自発核分裂しやすい核種の核分裂中性子を利用するものなどが,目的に応じて使われている。
執筆者:近藤 駿介
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陽子とともに元素の原子核の構成要素である素粒子.電気的には中性である.1932年,J. Chadwickにより発見された.質量は1.0086650 u(原子質量単位)で,陽子の質量1.0072765 u にほぼ等しい.スピンは(1/2)ℏ.中性子は電荷をもたないため,原子核に近づいてもクーロン反発力を受けることがなく,運動エネルギーが1 eV 程度(低速中性子),さらには熱運動エネルギー程度の約1/40 eV(熱中性子)になってもなお十分物質を透過し,その物質の原子核といろいろな核反応を起こすことができる.この核反応には,散乱,捕獲,α粒子放出など,通常の核反応のほかに,重い核では原子核分裂が含まれる.また,これらの反応に際して,しばしば共鳴現象(中性子共鳴)が起こり,核構造理解の手がかりとなる.熱中性子のド・ブロイ波の波長は,固体の原子間距離と同程度であるため,中性子回折の現象が起こる.これを利用して結晶構造の解析,とくに水素原子の位置決定を行うことができる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…原子核反応ともいう。衝突する粒子は,陽子,中性子,π中間子,電子,光子などの素粒子である場合と,重陽子(重水素の原子核),α粒子(ヘリウム4の原子核),またはもっと重い原子核などの場合とがある。
[核反応の発見と研究の発展]
核反応の研究は,1919年E.ラザフォードが,ラジウムから出たα粒子を窒素の原子核にあてると,陽子が放出されるとともに酸素の原子核が生ずることを発見したときから始まる。…
…もともとはこれ以上分割できない恒常不変な最小のものと考えられていたが,20世紀初期に原子核と電子とから構成されていることが明らかにされた。また,原子内の状態もいろいろに変わりうることがわかり,その後,さらに原子核が陽子と中性子とから構成されていることも明らかとなった。高速の原子核をもう一つの原子核に衝突させると,それらの原子核が壊れて他種の原子核に変わることもある。…
…これが原子である。原子は確かに物質を構成する基本粒子であり,化学的性質を保つ最小の単位ではあったが,しかし20世紀に入ると,この原子はそれ自身決して分割不可能なものでなく,中心に原子核という小さな粒子があって,そのまわりをいくつかの電子という小さな粒子が回っていることが明らかにされ,さらに原子核も陽子と中性子の複合体であることがわかった。このように物理学が対象とした万物が原子からなり,その原子がすべてこの3種類の小さな粒子(陽子,中性子,電子)でできているとすれば,これらの小さな粒子こそ,もっとも基本的なものであり,このためこれらの粒子は自然を構成する素元的な粒子という意味で〈素粒子〉と呼ばれるに至ったのである。…
…計数管,霧箱,高圧電離箱などの検出装置を用いる実験によって,32年その新放射線が陽子とほぼ同じ質量をもつ電気的に中性の粒子からなることを確証した。この中性子の発見によって35年にノーベル物理学賞を受賞。中性子の発見は,原子核の構成要素を確定すると同時に,1930年代の原子核反応研究にとって非常に有効な手段を与えることになった。…
※「中性子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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