ビカリヤ(英語表記)Vicarya

改訂新版 世界大百科事典 「ビカリヤ」の意味・わかりやすい解説

ビカリヤ
Vicarya

日本各地の第三系中新統から発見される大型の巻貝化石。軟体動物腹足綱ウミニナ科の1属。全体の形は長円錐形で細長く,高さは最大10cm程度に達する。殻上には大きな三角形のこぶ状突起が1列に並び,成体では殻口の外縁が外側に広がって波うっており,複雑な形態をもつ。この貝は,第三紀始新世に西太平洋の熱帯域に出現して西太平洋各地からインド洋にかけて広く分布し,中新世中期に絶滅した。日本では石垣島と長崎県高島炭田に始新世の種が知られているほか,中新世中期初頭の約1600万年前ごろを中心とするごく短い期間にだけ,北海道南部にまで広く分布する。この巻貝は,当時の熱帯および亜熱帯域の干潟に生息し,泥の上をはいまわって表面の有機物を食べていたと考えられていて,これが広く発見されることから,中新世中期初頭には短期的ながら北海道南部までが亜熱帯域にはいっていたと考えられている。大型の殻をもち,数も多いことから古くから注目され,江戸末期の《雲根志》にも記述がある。岐阜県瑞浪地方では,殻の内部にケイ酸が沈殿して石灰質の殻が溶け去り,らせん状の内型が美しいオパールとなって発見されるものを“月のお下がり”とよんでいる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ビカリヤ」の意味・わかりやすい解説

ビカリヤ
Vicarya

軟体動物門腹足綱ウミニナ科の化石属。温暖な海域内湾にすんでいた巻貝。殻は厚くやや大型で,表面には著しい棘状突起と螺肋がある。殻口外唇は厚く外側に広がり,その上方に切れ込み口がある。この部分は切れ込み帯となって上のほうの螺層まで続いている。特徴ある軸褶がある。日本から東南アジアミャンマーにいたる各地の新第三系中新統に産し,示準化石とされる。(→月のおさがり

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