改訂新版 世界大百科事典 「ボリス1世」の意味・わかりやすい解説
ボリス[1世]
Boris Ⅰ
生没年:?-907
ブルガリアの汗(ハーン),のちに公。在位852-889年。ブルガリア最初のキリスト教君主。9世紀前半の急速な領土拡大の後をうけて汗位に就いたが,国際的認知を得るためと封建体制の整備のため,キリスト教の導入は不可避であった。862年東フランク王国と軍事同盟を締結する際に,西方教会によるキリスト教の導入を約束したが,863年ビザンティン帝国との戦いに敗れた。この時の講和の条件として東方正教を国教とすることを認めた(864)。キリスト教の受容は保守的な貴族層の反乱を招いたが,一方ではブルガール族とスラブ諸族の融和統合を促進した。また東西両教会の対立を利用して,独立的なブルガリア大主教座の設置に成功し(870),モラビアを追われたキュリロスとメトディオスの弟子たちを迎え入れ(886),スラブ語典礼の導入によってブルガリア教会の急速な発展をもたらした。889年修道院に入り,公位を長子ウラディミルに譲ったが,ウラディミルの反教会的行動を見てこれを廃し,第3子シメオン1世を公位に就けた(893)。
執筆者:小船井 文司
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報