日本大百科全書(ニッポニカ) 「メルヒェン」の意味・わかりやすい解説
メルヒェン
めるひぇん
Märchen ドイツ語
本来の意味は、小さい話。したがって伝説、寓話(ぐうわ)、笑話、聖者伝など、口伝えの短い話全体をさしていた。ドイツのロマン派の詩人たちやグリム兄弟の用法によって、ロマンチックな、あるいは幻想的なおとぎ話をさすようになった。現在でも、創作メルヒェンと伝承的メルヒェンの違いは区別されている。
創作メルヒェンには、ホフマン、ノバーリスらの作品があり、現代でも、レアンダー、ウィーヒェルトらは、メルヒェンと名づけた作品を残している。
伝承メルヒェンは、日本語で昔話とよばれているものにほぼ相当する。口伝えの文芸であるため、創作文学とは異なる様式的特徴をもっている。主人公や物を孤立的に設定することを好む。王、一軒家、ひとりっ子など。そして同時に、極端さを好む。王は上の極端であるし、極貧者は下の極端として語られる。美しさ、強さなども極端にいう。時間、場所、条件がしばしば一致する。偶然の一致ではなく、特有の様式なのである。繰り返しは3回であり、毎回ほとんど同じことばで繰り返される。肉体などを立体的に記述せず、平面的に記述する。それゆえに、腕の切断などの事件が容易にメルヒェンのなかに取り入れられるのである。これらの性質をまとめると、メルヒェンは抽象的様式をもつ文芸といえる。
[小澤俊夫]
『マックス・リュティ著、小澤俊夫訳『昔話――その美学と人間像』(1985・岩波書店)』▽『宮下啓三著『メルヘン案内――グリム以前・以後』(1982・日本放送出版協会)』