三尖弁閉鎖症(読み)さんせんべんへいさしょう(その他表記)Tricuspid atresia

六訂版 家庭医学大全科 「三尖弁閉鎖症」の解説

三尖弁閉鎖症
さんせんべんへいさしょう
Tricuspid atresia
(循環器の病気)

どんな病気か・原因は何か

 三尖弁閉鎖とは、三尖弁口が閉鎖して、右心房と右心室の交通が遮断された心奇形です(図18)。

 全先天性心疾患の1~3%を占め、その多くは肺血流の多寡によって新生児早期からチアノーゼ(皮膚や粘膜紫色になること)、または心不全が現れ、早期の診断・治療を必要とします。本症の13~19%に心臓以外の奇形を伴います。

 胎生期初期(胎生30日ころ)の心臓の発生異常で生じますが、原因は不明です。

症状の現れ方

 チアノーゼは、生後1日目に約半数の症例で現れます。動脈管依存型の新生児ではプロスタグランジン製剤の持続点滴が必要になります。

 さらに、肺血流の少ない群では、ファロー四徴症と同じようにスペル発作(唇が黒くなり、一時的に意識を失う発作)を認めることもあり、その場合は乳児期早期に開胸によるシャント手術が必要になります。

 逆に、肺血流が増加する群ではチアノーゼは目立たず、呼吸障害、肝腫大(かんしゅだい)、体重増加不良などの心不全症状が主体となります。その場合、長く放置すると肺高血圧症が進行し、将来の機能的根治手術フォンタン手術)ができなくなります。高肺血流群では、乳児期早期に肺動脈絞扼術(こうやくじゅつ)(バンディング手術)を行い、肺血行動態の改善を目指す必要があります。

 心房間の交通が小さく右心不全症状の強い例では、風船付きカテーテルによる治療が必要になることもあります。

検査と診断

 病気の診断には心臓超音波検査(心エコー)が最も有効で、三尖弁と右心室の交通がないことが直接確認できます。乳児期に姑息(こそく)手術(根治ではなく症状を改善する手術)の必要がある場合には、その後、心臓カテーテル、心血管造影検査(精密検査)が必要です。

 本症と区別すべき病気としては、ファロー四徴症(しちょうしょう)純型肺動脈閉鎖症(じゅんけいはいどうみゃくへいさしょう)完全大血管転位症(かんぜんだいけっかんてんいしょう)単心室(たんしんしつ)総動脈幹症(そうどうみゃくかんしょう)などがあげられます。

治療の方法

 新生児期にチアノーゼを認めたら、循環器小児科を受診し、早期の確定診断を受ける必要があります。本症では心室が左心室だけなので、基本的には単心室と同じように将来のフォンタン手術に備えて肺血管の適切な発育が必要だからです。すべての患者さんにフォンタン手術が可能ではなく、厳密な適応基準を満たした場合にだけ機能的根治手術が受けられます。

 根治手術が可能かどうかの境界領域では、上大静脈肺動脈吻合(ふんごう)術(両方向性グレン手術:半分フォンタン手術)を行って段階的にフォンタン手術に至る方法や、フォンタン手術の際に一部の静脈血左心房に流す「穴あきフォンタン手術」という方法を選択します。

 本症の自然予後(何も治療しない場合の経過)は不良で、10歳以上の生存率は約10%にすぎません。とくに、肺動脈閉鎖(はいどうみゃくへいさ)がある場合では、生後10カ月以内に死亡します。乳児期早期から専門病院での計画性のある治療戦略が必要な病気のひとつです。

新岡 俊治



三尖弁閉鎖症
さんせんべんへいさしょう
Tricuspid atresia
(子どもの病気)

どんな病気か

 右心房と右心室の間の三尖弁が、先天的に閉鎖している状態です(図12)。全身から右心房にもどってきた血液は、三尖弁が閉じているので心房中隔(ちゅうかく)にあいた穴(胎児期名残卵円孔)を通って左心房に抜けます。左心房で肺からの血液と混ざって左心室に入り、その後大動脈から全身へ流れるとともに、一部は動脈管(大動脈と肺動脈の間にある、胎児期の名残の血管で、出生後閉鎖する)や、合併した心室中隔欠損を通って肺に流れます。頻度は全先天性心疾患の約1~3%です。

原因は何か

 原因は不明です。胎児期に1本の管が折れ曲がるようにして心臓の4つの部屋ができていきますが、その過程の異常といわれています。

症状の現れ方

 通常は、生まれてすぐにチアノーゼ(皮膚や粘膜が紫色になること)で気づきます。とくに、肺への血流が行きにくいタイプの場合はチアノーゼが強く認められます。

 逆に、肺への血流が行きやすいタイプの場合は、チアノーゼの症状が軽い代わりに、多呼吸、体重増加不良などの心不全症状が現れる場合もあります。

検査と診断

 心エコー(超音波)や、特徴的な心電図の所見で診断します。

治療の方法

 肺血流が主に動脈管から供給されている場合、動脈管の閉鎖に伴いよりチアノーゼが強くなるので、まず動脈管を閉じないようにする薬を使います。その後乳児期早期に、腕に向かう動脈と肺動脈とを直接、あるいは人工血管を使ってつなぐ手術(ブラロック・トーシック(BT)短絡(たんらく)術)を行って肺への血流を確保します。

 比較的大きな心室中隔欠損があり、そこから肺血流が供給されている場合、心不全症状を伴うことがあります。利尿薬などの内科的治療でコントロールできない時は、肺動脈を軽くしばって血流を制限する肺動脈絞扼術(こうやくじゅつ)を行います。またこの病気の場合、右心房から左心房へと抜ける穴がしっかりあいていないと血液の流れが滞るので、カテーテルで心房間の穴を広げる治療が必要になることがあります。それらの治療をして状態を安定させて体重増加を待ち、最終的にはフォンタン型手術(図13)を行います。これは、心臓から出た血液が、全身をめぐったその勢いで肺まで循環してから心臓にもどってくるようにする手術です。

病気に気づいたらどうする

 専門医によって全身の血液の流れのバランスを十分に調べます。肺への血流がバランスよく調節された状態で、手術ができる体重になるまで成長を待ちます。

長谷川 聡


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「三尖弁閉鎖症」の解説

三尖弁閉鎖症(その他の先天性心疾患)

(1)三尖弁閉鎖症(tricuspid atresia)
定義・頻度
 右房と右室の交通が多くは筋性(ときに膜性)の閉鎖によって閉ざされた疾患である.心房-心室関係,心室-大血管関係,肺動脈狭窄の有無によって多様な形態・病態をとり得る.100万出生に対し79の発生率である.
発生機序
 房室管の右方移動,右側成分形成が障害されることによって生じるとされている.
血行動態
 心房-心室関係が正常の場合には体静脈還流は卵円孔もしくは心房中隔折損を通じて左室に流入し,心室-大血管関係に応じて大動脈・肺動脈へと送られる単心室型血行動態となる.チアノーゼは肺動脈血流の程度による.
徴候・診断
 肺血流増加型では努力性呼吸,哺乳困難,体重増加不良により気づかれることがある(チアノーゼは目立たない).肺動脈血流減少型では明らかなチアノーゼや心雑音が出現する.肺動脈狭窄がない場合でも肺血管抵抗の上昇により肺血流が減少すれば,チアノーゼがみられる.肺血流増加型で心房間短絡が乏しい症例では,体静脈うっ血,拍出低下の心不全が主徴候となることもある.
管理・治療
 チアノーゼ心不全といった症状を改善するとともに,最終手術となるFontan手術のために肺動脈血管抵抗,血管サイズを適正に保持することが目的となる.すなわち準備手術として肺血流増加型では肺動脈絞扼術が,また減少型では体動脈-肺動脈短絡が必要となる.Fontan手術は一期的に行われる場合もあるが,通常は段階的に(Glenn手術を経て)施行される.[山田 修]
■文献
Fontan F, Baudet E: Surgical repair of tricuspid atresia. Thorax, 26: 240-248, 1971.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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