化学辞典 第2版 「不斉誘導」の解説
不斉誘導
フセイユウドウ
asymmetric induction
キラルな環境下で反応を行うと,あらたに生成する構造もキラルになる現象をいう.たとえば,不斉炭素に隣接したカルボニル基をもつα-ケト酸の還元(下式)で生成するアルコールの炭素は不斉炭素となり,一つのエナンチオマーが優勢に得られる.不斉炭素がエステル部分の R4 にあっても同様であるし,カルボニル基がアルデヒド基である場合のグリニャール反応で生成する第二級アルコール部分もキラルになる.興味ある例として,不斉炭素をもつ2-オキサゾリノンアミド(図の(1))を酸化的二量化(図の(2))した実験結果(表)がある.
生成物としては,(S,S),(R,R),(R,S)の3種類があるが,用いる塩基と酸化剤によってそれらをつくり分けることができる.それらは,反応の遷移状態における配位化合物の安定な立体配座から説明されている.そのほか,光学活性なアルキルボランによる不斉還元のように,反応試薬が不斉な場合もあり,不斉誘導の研究は,複雑な構造をもつ天然有機化合物の合成のために,その重要性を増している.[別用語参照]野依良治
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報