翻訳|conformation
分子中の単結合の周りの回転により生ずる原子の空間的配列をいう。配座、コンホメーションともいう。簡単には、分子中の原子が実際にとっている三次元的な形と考えてよい。一つの分子が共有結合の切断なしに異なる空間的原子配列をとるとき、それぞれを配座異性体という。
有機化合物の炭素‐炭素単結合(C-C)を軸としてその周りで分子をねじった場合に生ずる原子の空間的配列の違いが、立体配座の問題としてもっとも重要である。たとえば、エタンCH3-CH3の中央のC-C結合の周りで分子をねじると、 のニューマン投影式で示したように、エタン分子はねじれ角(ω(オメガ))が異なる無数の形をとることができる。無数にあるこれらの立体配座のうちで、ωが0°の「重なり配座」と、ωが60°の「ねじれ配座」が典型的な配座として重要である。飽和化合物のC-C結合の場合には、ωが60°のねじれ配座(ねじれ形)をとった場合に分子のエネルギーが最低でもっとも安定になるので、飽和化合物のC-C結合は通常ねじれ配座をとっている。このようなエネルギーが極小値(最小値でなくてもよい)をとっている配座を配座異性体(コンホマー、安定配座)とよんでいる。 のブタン(X=CH3)や1,2-ジクロロエタン(X=Cl)のようなXCH2-CH2X型の分子では、エネルギー極小のねじれ配座としてゴーシュ(gauche)配座とトランス(trans)配座の2種類の配座異性体が存在する(これらはそれぞれゴーシュ形、トランス形とよばれることもある)。これらのうちゴーシュ配座では、二つのXが接近しているので両者の間に反発があり、すこし不安定になる。トランス配座にはこのような反発相互作用がないので、トランス配座のほうがより安定になり、ブタンなどの分子のもっとも安定な立体配座になる。トランス配座のように、一つの分子の配座のうちでエネルギーがもっとも低くもっとも安定な配座を最安定配座という。一般に、エネルギーが低い配座ほど多く存在し、常温のブタンはおよそ65%がトランス配座、35%がゴーシュ配座として存在する。単結合の周りのねじれによる配座は、常温では速やかに相互変換しているので、両配座異性体を別々に分けとることはできない。
飽和の鎖式化合物(アルカン)では、C-C単結合1本について( の一つのトランス配座と二つのゴーシュ配座のように)、3種類の安定配座が可能であるので、C-C結合の数が増えるにしたがって、とりうる安定配座の数は非常に多数になる。C-C単結合の数がn本になると、ねじれ配座の数は最大では3nになる。
炭素が環状に結合している環式化合物(シクロアルカン)では、環により束縛されてとりうる配座の数は大幅に制限されて、炭素数3のシクロプロパンから炭素数5のシクロペンタンはただ1種類の立体配座をとっていて、配座異性体をもたない。6員環以上のシクロアルカンは複数の安定配座をとることが可能である。たとえば、シクロヘキサンは二つの安定な「いす配座」をとることができる( 。そのうちの一方のみを示す)。また、 にあるように「ふね配座」や「ひねり配座」は分子が二つのいす配座の間で相互変化する際に経由する典型的な配座であるが、安定配座ではない。
C=C、C=Oなどの二重結合は、結合している原子がすべて同じ平面上に並んでいる平面配座、C≡CやC≡Nの三重結合は直線配座をとっていて、分子の形が固定されている。したがって、これらの不飽和基をもつ化合物では、同数の炭素原子をもつ飽和化合物と比べると配座異性体(安定配座)の数は少ない。
[廣田 穰 2016年11月18日]
『稲本直樹他編『立体配座解析演習』(1980・南江堂)』▽『Johannes Dale著、杉野目浩・大澤映二訳『三次元の有機化学 立体化学と立体配座解析』(1983・養賢堂)』▽『原田馨・日高人才著『新化学ライブラリー 立体化学』(1986・大日本図書)』▽『大木道則著『立体化学』第4版(2002・東京化学同人)』▽『M・J・T・ロビンソン著、豊田真司訳『立体化学入門――三次元の有機化学』(2002・化学同人)』▽『David G. Morris著、石川勉訳『チュートリアル化学シリーズ2 立体化学の基礎』(2003・化学同人)』
コンホーメションともいう.分子のなかの単結合を軸とし,その結合で結ばれている二つの原子団の一方を,他方に対して回転して生じるさまざまな形をいう.たとえば,エタン分子のニューマン投影式には,ねじれ配座(a)と重なり配座(b)の二つの代表的な立体配座が考えられ,(a)のポテンシャルエネルギーは約1 kJ mol-1 で安定である.
1,2-ジブロモエタンでは,ねじれ形の立体配座が3種類あり,アンチ配座(c)がもっとも安定で,ゴーシュ配座((d)および(e))がその次に安定であるが,重なり配座は不安定で存在しないとみられる.
シクロヘキサンのような環状化合物では,複数個の単結合を同時に回転させることにより,ねじれ舟形配座を含む無数の立体配座ができる.このうち,対称性のよい代表的なものに図のようなものがあるが,いす形配座がもっとも安定である.
ある分子がどのような立体配座をとっているかは,電子線回折,X線回折,赤外線吸収スペクトル,ラマン効果,NMRスペクトル,旋光分散,双極子モーメントなどの測定や反応速度の測定,反応生成物の分析などから決定される.このようにして分子がどのような立体配座に分布しているかを決定すること,また逆に,化合物の物理的,化学的性質を,立体配座を考慮することによって解析することを立体配座解析(conformational analysis)という.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
単結合のまわりの回転や,窒素原子などの反転によって生じる,原理的には無数に存在する分子内の原子の空間配列のそれぞれをいう。多くの場合,エネルギーが極値(極大または極小)をとるものだけを問題にする。同一平面構造式で表すことができても立体配座が異なる場合,それらはたがいに立体異性の関係にある。この種の異性を配座異性という。単結合のまわりの回転によって生じる異性を回転異性ということもある。典型的な配座異性としてはエタンのねじれ形と重なり形,ブタンのアンチ(トランス)形とゴーシュ形,シクロヘキサンのいす形と舟形などがある。一般に配座異性体間のエンタルピーは小さく,かつその間のエネルギー障壁も低い(エタンで約3kcal/mol)ので,室温で異性体を単離することは一般に困難である。窒素の反転によって生じる二つの立体異性体は,定義上立体配置の異なるエナンチオ異性体の関係にあるが(エナンチオ異性),エネルギー障壁が低いため配座異性の一種と考える。一般に原子または環の反転による異性を反転異性と呼ぶこともある。
→配座解析 →立体異性 →立体化学
執筆者:竹内 敬人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 高分子の1個の分子がとっている形は,必ずしも糸をぴんと張ったように直線状になっているわけではない。分子を構成している各原子はある決まった距離と角度とでつながっているが,その結合のまわりに回転が起こりうるので,高分子は多様な形態(コンフォーメーションconformation)をとることができる(図1)。
[固体の構造]
われわれが実際に見る高分子物質は1個の分子ではなく多数の分子が集合してできた固体である。…
…単結合のまわりの回転によって,他の可能な配向とは異なる分子の中の原子の特定の配向を配座または立体配座という。単結合のまわりの回転が可能な分子には原理上無数の配座が可能であるが,分子が実際にどのような配座をとるかを決めることを配座解析という。…
…これらのすべてが知られており,炭素正四面体説の有力な根拠になった。立体配置は炭素―炭素単結合の間の自由回転が可能であるという前提のもとでの立体構造であって,単結合のまわりの回転が束縛された結果生じる立体異性すなわち立体配座と区別される。新しい定義によると,立体異性体A,Bの相互変換のエネルギー障壁が高く,室温では変換が起こらないような場合,AとBは配置異性体であるのに対して,室温でも相互変換が起こりうるほどエネルギー障壁が低い場合,両者は配座異性体である。…
※「立体配座」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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