改訂新版 世界大百科事典 「ケト酸」の意味・わかりやすい解説
ケト酸 (ケトさん)
keto-acid
カルボニル基C=Oとカルボキシル基-COOHの両方をもつ化合物の総称。ケトン酸ketonic acid,ケトカルボン酸ketocarboxylic acidともいう。両官能基が直接結合しているものをα-ケト酸といい,これらの相対位置が離れるにしたがってβ-,γ-,δ-ケト酸という。いずれもケトンとカルボニルの性質を兼ね備えていて,ケトンとしてカルボニル試薬と反応し,カルボン酸として塩,エステル,アミド,酸塩化物などをつくる。
ピルビン酸CH3COCOOHに代表されるα-ケト酸は,加熱により容易に二酸化炭素を失ってアルデヒドを生じる。これの合成はα-ヒドロキシ酸の酸化によるのがふつうである。
β-ケト酸R-COCH2COOHは,遊離の状態はもちろんのこと,塩としても不安定で,すぐに二酸化炭素を放出して分解しメチルケトンを与えるため単離は困難である。通常,アセト酢酸エチルのようなエステルとして安定に存在する。β-ケトエステルは,典型的なケト・エノール互変異性を示し,両異性体の平衡混合物として存在する。
β-ケトエステルのメチレン基CH2は,塩基により容易に脱プロトンされるなど反応性が強く(活性メチレン),有機合成の原料として広く利用されている。β-ケトエステルは,2分子のエステルをナトリウムエトキシドでクライゼン縮合して合成される。
γ-ケト酸は安定で,加熱しても脱炭酸されずに脱水環化して不飽和γ-ラクトンを生じる。
執筆者:井畑 敏一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報