日本大百科全書(ニッポニカ) 「乾坤弁説」の意味・わかりやすい解説
乾坤弁説
けんこんべんせつ
江戸期の自然科学書。転(ころ)びバテレンの沢野忠庵(ちゅうあん)が口述した西洋アリストテレス流の自然学概説書に、1660年(万治3)儒医の向井玄升(げんしょう)が弁説(原説の批評)を付し全4巻としたもの。内容は天文、気象、地学などに及ぶ。原著は不明であったが、尾原悟の研究により、16世紀末に豊後(ぶんご)国府中(大分市)で活動した神父ゴメスPedro Gomezが日本人神学生のために著述した『天球論』De Sphaeraとの類似が示された。初めて西洋の自然学に触れた玄升が、蛮人は「理気、陰陽を知らず」と、伝統的立場から反駁(はんばく)を試みている点は文化史的に興味深い。
[中山 茂]
『国書刊行会編『文明源流叢書 中』(1969・名著刊行会)』