伊奘諾尊(読み)いざなきのみこと

朝日日本歴史人物事典 「伊奘諾尊」の解説

伊奘諾尊

日本神話に登場する神。相手を「さあ」と誘うときに発するイザ,助詞「の」にあたるナ,男を意味するキが結合した名称とも,誘う意の動詞イザナフの語幹に男を意味するキが付いた名称とも解釈し得る。『古事記』では伊邪那岐命と書かれる。万物を生み出す伊奘冉(イザナミ)の夫。この神が登場する『日本書紀』の諸伝承はきわめて多様だが,『古事記』では次のように伝える。混沌とした漂う国を作り固めろという天の諸神の命令を受けて天の浮橋に降り立ったイザナキ・イザナミの夫婦神は,海水を矛でかき回したあとでその矛を引き上げた。すると,矛の先から滴り落ちた塩が固まって淤能碁呂島が出来たので,夫婦神はそこへ降りて交合した。最初に生まれた子は意に満たぬ子だったが,以後イザナミは順調に島々を生んでいった。しかし最後に火の神を生んで絶命し,死者の国である黄泉国へ旅立った。イザナキは怒って火の神を切り殺し,妻を連れ戻しにすぐに黄泉国へ赴いた。妻は一緒にもとの国へ戻りたいとの意志を表明し,しばらく待ってくれといったまま姿を消したあと,待ち切れなくなったイザナキが櫛の歯を欠き取ってこれに火をつけて辺りを見ると,妻の腐乱死体が横たわっていた。これを恐れて逃げ出すと,追いかけてきた妻は夫に次々と攻撃を加えた。なんとかかわして逃げ切り,妻と決定的な夫婦喧嘩をしたあと,地上へ戻って穢れを祓ったときに,天照(アマテラス),月読,須佐之男の貴い子を生んだ。子らにそれぞれ統治すべき国を与えたが,須佐之男だけはいうことを聞かずに泣き続けた。そこで,これを追放したあと淡海(近江)の多賀に鎮座した,という。イザナミと共に万物を創成した神であること,また黄泉国で妻と喧嘩した際に,人間を1日に1000人ずつ殺してやると妻がいったのに対して,それならば自分は1日に1500の産室を建ててやると発言したこと,妻との別離ののちに太陽(天照)と月(月読)を生んだことなどから,地母としてのイザナミに対して,天父としての性格も濃厚に持っている。なお,『日本書紀』や『延喜式神名帳によれば,この神は特に淡路関係が密接なので,もともと淡路の漁民に信仰されていた神だったものが,皇室の崇める最高神アマテラスの親神として神話の中に取り込まれたものだと考えられている。<参考文献>松村武雄『日本神話の研究』2巻,岡田精司『古代王権の祭祀と神話』,大林太良『日本神話の起源』

(佐佐木隆)

出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報

デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「伊奘諾尊」の解説

伊奘諾尊 いざなぎのみこと

記・紀にみえる神。
配偶神の伊奘冉(いざなみの)尊とともに高天原(たかまがはら)からくだり,日本の国土と神々を生んだ。「古事記」には伊邪那岐命とあり,火の神を生んで絶命した伊邪那美命(伊奘冉尊)を追って黄泉(よみ)の国にいくが,禁忌をやぶったため伊邪那美命と争いとなる。わかれて地上にもどり,筑紫(つくし)の阿波岐原(あわきはら)で禊(みそぎ)をすると,目や鼻から天照大御神(天照大神)(あまてらすおおみかみ)らが生まれたという。

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