伝奇漫録(読み)でんきまんろく

改訂新版 世界大百科事典 「伝奇漫録」の意味・わかりやすい解説

伝奇漫録 (でんきまんろく)

16世紀にベトナムのグエン・ズーNguyen Du(阮璵)によって漢文で書かれた短編小説集。明の瞿佑の《剪灯新話》や唐・宋の伝奇の影響を強く受けた20編の伝奇小説を4巻に収めている。なかでも〈木綿樹伝〉〈西垣奇遇記〉〈陶氏業冤記〉〈昌江妖恠録〉〈傘円祠判事録〉〈夜叉部帥録〉などに《剪灯新話》の〈牡丹灯記〉や〈令狐生冥夢録〉の模倣や影響がみられ,また《章台柳伝》《柳毅伝》《長恨歌伝》などの唐代の小説と関連する伝奇もある。具体的な時代を背景に実在の人物を配した小説に民族意識の主張がうかがえ,また16世紀文学の特徴であるレ(黎)朝の体制や戦争,あるいは官僚の罪悪に対する批判を最も厳しく表現した作品と評価されている。作者のグエン・ズーはグエン・トゥNguyen Tu(阮嶼)とも書かれるが,生没年ともに不詳。わずかにドトゥン(杜松。現,ハイフン省ニンザン)の人,レ朝洪徳年間(1470-97)の承政使グエン・トゥオン・フィエウ(阮翔縹)の子で,マク(莫)朝の著名な学者グエン・ビン・キエム(阮秉謙。1491-1585)の門下に出て科挙の郷進科に合格しタイントゥエン(清泉)県の知県に補されたが,老母を養うことを理由に1年で官を辞したことが伝わっている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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