マックス・ウェーバーは「職業としての政治」のさまざまな箇所で、官僚(官吏)について触れている。「生粋の官吏」は、行政を何よりも非党派的に遂行するよう求め、「憤りも偏見もなく」職務を執行すべきで、闘争に巻き込まれてはならない、と説く。
さらに近代的な官吏の特徴は、自らの私欲のない証しとして培われた「高い身分的な誇り」にあると指摘。「官吏として倫理的に極めて優れた人間は政治家に向かない」と、政治家との違いを強調している。
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官僚ということばは官吏と同じ意味に用いられることもあるが,厳密には,むしろ官吏のあるべき姿から逸脱した場合をさすことばとして理解すべきであろう。たとえば,19世紀の初頭,プロイセンの官吏制度の改革を行ったシュタインが,改革以前の官吏について,彼らは月給取りで,本の上の知識しかもたず,支持すべき主義主張もなく,恒産もないと述べたとき,そこには活力を失ったみじめな官僚の姿が描き出されていたのである。ただ,より一般的には,このことばはむしろ官吏が権力者の意図を実施に移すという執行的な役割から逸脱し,みずから権力者たらんとする志向を示すようになったときに用いられてきたといえる。そして,これは官僚制の観念のうちに,〈政府とその機関が一般人民に対してほしいままに行使する権力〉(《ドイツ外来語辞典》1813)という意味が含まれていたことと関連しているのである。
ところで,こうした権力志向が現れてくるについては,官僚個人の人格的要素とは別に,いくつかの制度的な理由が考えられる。たとえば,制度としての官職に特別の威信,いわゆるカリスマが付着し,その保持者に特別の影響力を賦与する場合があることは古くから知られている。位階勲等から法衣に至るまで,官職をとりまくさまざまの儀式はこうしたカリスマの原因であると同時に,その結果でもあるという性格をもつ。しかし,もっとも重要な理由は官吏が権力的支配に必要な知識を保有しているということであろう。官僚の支配とは知識による支配であるとされるゆえんである。しかも,多くの場合,この知識は〈職務上の秘密〉として官僚の占有物とされ,その優位をいっそう高める方向に作用する。M.ウェーバーも指摘しているように,〈職務上の秘密〉という観念は官僚の発明にかかるもので,軍事,外交など事柄の性質上それが許される領域以外ではとうてい受けいれがたいこの態度ほど,官僚によって熱心に擁護されるものはないのである。ただ,こうした知識の独占的所有は官僚の権力的支配を支える有力な基盤ではあるが,その存続を保障するに十分な条件ではない。権力的支配の存続には代表性による正当化が不可欠であるが,知識には十分な代表性がないからである。そこから,君主制や政党制などの支えを欠くいわばむき出しの官僚支配は,その存立を確保するために,警察,軍隊などの強制力の発動に頼らざるをえなくなる。つまり,官憲国家は暴力国家たらざるをえない宿命を負っているのである。
なお,この官僚と官僚制との関係は複雑である。すなわち,官僚制には機構による支配という面があり,この点では,官僚の権力的支配と共通するもの,相互移行的なものをもっているが,しかし,他方,この機構による支配が成り立つためには官僚の側における禁欲と規律が必要で,この点で,権力的支配の担い手としての官僚にみられる奔放さとは相いれぬことにもなるのである。ウェーバーの官僚制論において,官僚制と官僚との間に用語上の混乱や混同がみられるのはこうした事情に基づく。
→官僚制 →公務員
執筆者:伊藤 大一
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…周の初期に全盛で春秋時期まで維持された封建制度の時代,これはとにもかくにも礼と徳が支配したとされる時代。それが徳の対立物たる〈力〉主義によって陥った〈戦国〉の分裂抗争という過渡期(春秋戦国時代)を秦の始皇帝が再び統一(前221)して以後の郡県の時代,これは法律と官僚の支配した中央集権の時代。秦以後,清朝の滅亡(1911)まで2000年,郡県の制度というものはもはや動かすべからざる情勢となったが,しかも国家の教学としては道徳と礼楽を原則とする儒教が採られたので,聖人たる周公の定めたところであり,儒教経典の記載するところである封建の世は後々まで政治の理想としての魅力を失わず,封建に帰れ,とか,郡県制の中に封建の意を寓せしめよ,とかの声は事あるごとに繰り返された。…
…【青木 和夫】
[中世]
中世の庶民に対する初等教育は,室町時代から戦国時代にかけて徐々に普及していった。中世前期においては王朝国家の貴族・官僚,幕府の官僚機構に属する武士のほかは,僧侶や芸能にたずさわる人々や,国衙などの官僚機構につらなる人々が,その職能に応じて,これらを特殊技能として保持しており,一般の中小武士・庶民における〈読み書きそろばん〉の普及は低い水準にあった。《今昔物語集》の伊豆守小野五友が,この能力を有するものを募って目代に任じた話や,《吾妻鏡》に載せられている無双の算術者大輔房源性の話は,これらの能力をもつものが一般的には少なかったことを示している。…
※「官僚」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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