模倣(読み)モホウ

デジタル大辞泉 「模倣」の意味・読み・例文・類語

も‐ほう〔‐ハウ〕【模倣/×摸倣】

[名](スル)他のものをまねること。似せること。「人の作品を―する」
[類語]まね模擬人まね猿まね右へ倣え複写模写複製写し模造紛い物偽物真似事模する倣う見倣うなぞらえる擬するイミテーションカーボンコピー

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精選版 日本国語大辞典 「模倣」の意味・読み・例文・類語

も‐ほう‥ハウ【模倣・摸倣】

  1. 〘 名詞 〙 まねること。似せること。また、行動態度・慣習・思想などについて、ある個人集団表現に刺激され、他の個人や集団が、それと類似の表現を行なうこと。ぼほう。
    1. [初出の実例]「及中世、摹倣唐制」(出典:日本外史(1827)一)
    2. 「幾年か彼女は花鳥の模倣を習った」(出典:家(1910‐11)〈島崎藤村〉下)
    3. [その他の文献]〔宣和書譜‐一・太宗〕

ぼ‐ほう‥ハウ【模倣】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「ぼ」は模の漢音 ) =もほう(模倣)
    1. [初出の実例]「今衣冠の制中古唐制に模倣(ボホウ)せしより流て軟弱の風をなす」(出典:新聞雑誌‐一二号・明治四年(1871)九月)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「模倣」の意味・わかりやすい解説

模倣(心理学)
もほう
imitation

人および動物が他者の行動(モデル)を観察することによって、その行動の全体、あるいは部分と類似した行動を繰り返すことをさす。模倣の範囲・性質はさまざまであり、モデルの特徴・価値、観察者の傾向・経験、モデルの行動の結果(強化)に依存する。

[小川 隆]

模倣と生得性

模倣は古くから生得的な本能の一種として扱われ、たとえば社会心理学者のタルドJ. G. Tardoはこれを社会的行動の発生基盤と考えていた。優越者の行動を模倣することで、劣等者はそれとの強い情緒的結合を求めようとし、流行の現象を発生させる。地域や職業にみられる慣習は、それに従う模倣によって維持される。子が親の、年少者が年長者の行動を模して、文化が伝承され、社会化が促進される。芸術の面でも優れた先人の技法・表現を模倣する行動が創造と並んで重視されることもある。模倣を通じて、モデルと観察者との同一視identificationが説かれる。

[小川 隆]

模倣と習得性

しかし、近来では、生得的な面ではなく、模倣の習得面が注目され、模倣学習の実験的研究がなされている。たとえば、N・E・ミラーらは高架式T迷路を用いてネズミに白・黒の弁別学習をさせたのち、学習を完了したネズミをモデルとして、別のネズミにこれを観察させ、それに従って進路を選択させる訓練に成功した。この実験では模倣行動によって目標(餌(えさ))に到達するわけであるが、モデルに追従し、模倣行動をしても餌(えさ)に到達できないと(消去)、モデルの価値はなくなり、模倣行動は消失する。模倣行動を維持するのは積極的強化であって、そこに習得される面がある。

 模倣行動をモデルの行動の結果(強化・無強化)に関連させる学習は、観察学習observational learning、モデリングmodelingなどともいわれる。観察学習は実際の行動だけでなく、スクリーン上の実演、戯画化されたものであっても効果をもっている。観察学習を通じて、新しい行動の様式の獲得、すでにもっている行動様式の促進、すでにもっている好ましくない行動様式の除去がなされる。

[小川 隆]

『J・ピアジェ著、大伴茂訳『模倣の心理学』(1968・黎明書房)』


模倣(文学・芸術)
もほう
imitation

文学・芸術における模倣は一般に「自然模倣」と「古代模倣」に大別される。自然模倣の自然とは日本人のいう花鳥風月ではなく実物の意で、外界の実物によく似せてつくることは古来芸術の必須(ひっす)の条件であった。古代ギリシアでは「ミメーシスMimesis」(模倣)がすなわち今日いうところの芸術であり、芸術家は自然をよく模倣する者と考えられていた。アリストテレスは「人間最初の知識は模倣を通じてなされる」といい、レッシングは「芸術は自然の完成である」といった。近代の写実主義や自然主義や、それらを深化させ内在化させたシュルレアリスムなどもこのミメーシスの流れをくむ。また古代模倣とは、古典主義美学の中枢をなす考え方で、ギリシア・ローマの完成された文学・芸術作品に対する憧憬(しょうけい)が、その模倣を創作規範として義務づけるまでになったものである。泰西の芸術は古代ギリシア・ローマ以来の伝統なしには考えられず、それは近代人にとっても前述の自然そのものを凌駕(りょうが)するものでさえあった。そこから芸術を自然・人間の上位に置く、いわゆる芸術至上主義の立場が生じ、「自然は芸術を模倣する」というワイルドの有名な逆説を生むことにもなった。

[小林路易]

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普及版 字通 「模倣」の読み・字形・画数・意味

【模倣】もほう(はう)

まねする。〔宣和書譜、一、歴代諸帝、唐太宗〕(もと)より王羲之の字を好み、心、~の餘、倣することを廢せず。

字通「模」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「模倣」の意味・わかりやすい解説

模倣
もほう
imitation

一般には人の動作などをまねることの意であるが,心理学では,ある反応がその刺激の性質に類似しようとする傾向をいう。また社会学では,G.タルドが社会現象を人の心の関係とみて,この関係を広義の模倣ととらえ,「模倣の法則」と名づけて社会学の基礎とした。哲学の用語としては,ミメーシスと同義に用いられ,美学上の用語としては,芸術活動の起源をみる場合 (アリストテレスのミメーシス論) ,あるいは芸術の本質は実在の模倣であるとする場合 (リアリズム) などにおいて語られる。

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世界大百科事典(旧版)内の模倣の言及

【芸術】より

…ここに芸術が美をとどめおくことばかりか,ひいては美を新たに創造することをも使命として登場する。したがって創作の機構に芸術の特質は最も明らかとなるが,古来の創作論を大別すれば模倣説,表出説,形成説の三つが挙げられる。(1)模倣(再現)説。…

【ミメーシス】より

…西洋における哲学・美学上の概念。〈模倣〉と訳される。この概念は,自然界の個物はイデアの模像mimēma,mimēseisであるとするプラトン哲学の考え(《ティマイオス》)に由来するが,さらにさかのぼれば,数と個物の関係についてのピタゴラス学派の思想にその原型がある。…

【模写】より

…彫刻の場合,模刻とも呼ぶ。芸術作品の創作には模倣,理想化,表出,象徴といった契機が考えられるが,それらは対象への対応の仕方によって異なっている。そのなかでも対象の姿かたちを忠実に模倣,再現しようとする試みは,古今東西の創作活動,とくに造形芸術において重要な課題として行われている。…

※「模倣」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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