改訂新版 世界大百科事典 「借地農」の意味・わかりやすい解説
借地農 (しゃくちのう)
tenant
Pächter[ドイツ]
fermier[フランス]
賃貸借契約にもとづいて農地を占有している農業経営者あるいは農民を通常〈借地農〉と呼ぶ。すなわち,農民だけでなく,農業資本家(資本家的農業経営者)もその中に入る。借地条件は借地契約をもって取り決められるが,文書によらない口頭契約もある。借地農の義務として地代(借地料)の支払い,適正な土地利用,土地の肥沃度の維持,建物その他の維持・修繕,借地明渡しの際における次期借地農への便宜提供等が規定され,同時に地主の義務として,たとえば借地農の土地改良投資の〈残された価値〉の補償(いわゆるテナント・ライト)ないし〈有益費〉補償その他が規定されることになる。しかし歴史的にみれば,イギリスの〈任意借地tenant at will〉や〈年ぎめの借地yearly tenancy〉,フランスやイタリア等の〈折半小作〉,さらにはアイルランドや日本の小作農のように,農業資本家の〈定期借地〉とは異なる借地条件の劣悪な例も多くみられる。なお,〈借地農〉という場合,封建社会の〈保有農〉と区別されるのが普通であるが,封建的土地保有農民をもtenant,tenancier等々という場合もある。また,不動産権の一種である〈生涯権life estate〉の所有者をlife tenantという場合もあるが,それは〈一代にわたる借地農life tenant(lease for a life)〉とは法律的に異なる。
→小作制度
執筆者:椎名 重明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報