内科学 第10版 「冠動脈奇形」の解説
冠動脈奇形(その他の先天性心疾患)
冠動脈発生の途中で,大動脈周囲の毛細血管叢が統合されてできた複数の冠動脈原基が次第に整理されて左右の2本が残り大動脈に開口すると考えられているが,これらの行程の障害で冠動脈奇形が生じる.冠動脈の役割である心筋血流(酸素)供給を損なう可能性のあるものと,形態的には異常であるが心筋血流供給に問題ないものがある.ここでは前者のみを取り上げるが,代表は左冠動脈肺動脈起始(ALCAPA(anomalous left coronary artery from the pulmonary artery),Bland-White-Garland症候群)である.これは動脈幹が大動脈と肺動脈に分割される際に左冠動脈原基が肺動脈側に取り残されたと考えられる.
胎内では肺動脈,大動脈の圧および血液酸素飽和度はほぼ同一なので心筋血流(酸素)供給は正常と同様に保たれる.出生後,肺動脈圧が低下し肺動脈血酸素飽和度が低下すると左冠動脈支配領域は虚血に陥り,左室収縮不全,僧帽弁逆流が生じる.冠血流を維持するために右冠動脈からの側副血行が発達するが,肺動脈圧が低下していれば側副血行の一部は肺動脈内にスチール(盗血)されることになる(図5-8-25).これは左右短絡となり心仕事量を増やして,さらに心筋酸素消費/供給アンバランスを増大させることになる.治療としては一般的な左心不全,虚血に対するものに準ずるが,酸素投与は肺血管抵抗を下げることによって肺動脈内へのスチールを付加する結果になる危険性がある.手術的治療は冠動脈の大動脈への移植もしくは肺動脈内トンネル(竹内法)である.
右冠動脈肺動脈起始も起こり得るが,その頻度はALCAPAに比し極端に低い.
また左右冠動脈のいずれかが大動脈と肺動脈の間を走行する異常が,ときとして圧迫による虚血を起こすことがある.安静時には圧迫所見がなくとも運動時には両大血管に挟まれた走行部位が両者の血流増加,血圧上昇によって圧迫され心筋虚血を生じ,ショック・失神に陥る例もある.[山田 修]
■文献
Fyler DC, Buckley LP, et al: Report of the New England Regional Infant Cardiac Program. Pediatrics, 65(Suppl): 376-461, 1980.
Rose V, Izukawa T, et al: Syndromes of asplenia and polysplenia: A review of cardiac and non-cardiac malformations in 60 cases with special reference to diagnosis and prognosis. Br Heart J, 37: 840-852, 1975.
Ryan AK, Blumberg B, et al: Pitx2 determines left-right asymmetry of internal organs in vertebrates. Nature, 394: 545-551, 1998. 7)~10)全体Mitchell ME, Sander TL, et al: The Molecular Basis of Congenital Heart Disease. Semin Thorac Cardiovasc Surg, 19: 228-237, 2007.
Anderson RH, Baker EJ, et al: Pediatric Cardiology,3rd ed, Churchil Livingston/Elsevier, Philadelphia, 2009.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報