日本大百科全書(ニッポニカ) 「劉三姐」の意味・わかりやすい解説
劉三姐
りゅうさんじえ
中国の主として広西、とりわけチワン族に伝えられる伝説上の娘で、山歌(さんか)の巧みな歌い手。劉三妹(サンメイ)、劉三娘(サンニヤン)ともよばれる。中国のとくに西南地方では、日本の古代にあった歌垣(うたがき)に似た民俗が盛んであるが、山歌とは本来、そのような男女の集いの場で即興的に交わされる一種の相聞歌(そうもんか)のことである。劉三姐をめぐる伝説は多いが、いずれも、この山歌を交わし合ういわゆる歌合戦のくだりがその柱になっていて、劉三姐の機知に富んだ歌いぶりがさまざまに伝えられている。広西チワン族自治区では、1958年の全国的な新民歌運動に続いて「劉三姐」創作上演運動が展開され、無数の山歌の収集を基礎に、種々の脚本による上演、検討を経て60年に歌劇『劉三姐』がまとめられた。歌唱の部分がすべて山歌の形式によったユニークな民族歌劇として注目された。この舞台では、劉三姐は、封建地主やその御用文人に痛烈な風刺に満ちた山歌を浴びせる聡明(そうめい)で勇敢な娘として登場している。
[菊田正信]