チワン族(読み)ちわんぞく(英語表記)Zhuang

日本大百科全書(ニッポニカ) 「チワン族」の意味・わかりやすい解説

チワン族
ちわんぞく / 壮族
Zhuang

中国の55の少数民族中で最大の人口(1692万6381、2010)をもつ少数民族。広西(こうせい)チワン族自治区に人口の大半が居住するが、雲南広東(カントン)、貴州、湖南各省にも一部居住している。日常生活において漢民族との区別がつきにくいほど漢化が進んでいる。「チワン」という名称は彼らの自称に由来するが、これにあてられた漢字は「撞」から「」へと変遷し、中華人民共和国成立後にけもの偏の文字のかわりに用いられた「僮」は音がずれるため、1965年から「壮」となった。言語はタイ系で、中国ではチワン・トン系と分類する。広西南部の左江(さこう)両岸に連綿と続く峭壁(しょうへき)上には、かつてのチワンの人々の生活を知る重要な手掛りとなる壁画が残されており、500個以上出土している銅鼓とともに重要な歴史的遺物である。峭壁の壁画は、2016年、「左江花山のロック・アートの文化的景観」としてユネスコ(国連教育科学文化機関)により世界遺産の文化遺産(世界文化遺産)に登録された。文身(ぶんしん)(入れ墨)や杭上(こうじょう)家屋が残っている地域もあり、これら伝統文化との関係から古代の百越(ひゃくえつ)の人々との関係が指摘されている。

 水稲を中心として、トウモロコシいも類を栽培するほか、気候に恵まれているため各種果物や茶なども産する。ろうけつ染めは特産として有名である。祭日には糯米(もちごめ)を炊き、植物で彩色した五色飯を食べる地域もある。中華人民共和国成立前は各地で行われる歌垣(うたがき)が、青年男女の配偶者選びの機会となった。現在もかけあい歌は盛んである。1980年代ごろまでは、結婚後も妻がしばらくの間、自分の実家で生活する「不落夫家」の慣習が伝統的にみられた。

[横山廣子]

『馬寅編、君島久子監訳『概説中国の少数民族』(1987・三省堂)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「チワン族」の意味・わかりやすい解説

チワン(壮)族
チワンぞく
Zhuang

タイ諸族の一民族。僮族とも書く。中国のおもにコワンシー (広西) チワン (壮) 族自治区に居住。中国最大の少数民族で,人口 1600万 (1990) 。杭上家屋に住み,ウシやスイギュウを使って水稲栽培を行なうが,陸稲,トウモロコシ,サトウキビなども栽培する。政治的にも文化的にも漢民族の影響が強くみられるが,タイ族固有の文化も消滅しておらず,特に祖先崇拝的なアニミズムもみられる。また一夫一妻制を原則とし,結婚前の性的自由と,仲人を介しない結婚,結婚しても子供の生まれるまで妻が両親のところにとどまり,夫が通うなどの習俗がある。

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