山歌 (やまうた)
日本の民謡の分類名で,広義には山林原野で歌われる歌を指す。労作歌の一種。山歌はふつう,野山で労働する者が道を行くときに歌う歌で,〈山行歌〉の異称もある。戸外での作業服を山着というなど,〈ヤマ〉という言葉は戸外を意味しており,〈山〉で歌われる歌はすべて〈山歌〉と呼ばれる。草刈歌,木おろし歌,萱刈(かやかり)歌,木流し歌,茶山歌などである。とくに有名なのは《津軽山歌》で,元来は深山で伐った木を山中の急流や激流に流しながら歌われる樵夫(きこり)歌で,〈イヤァーイデヤァーナ五ャー 十五ャー七がャェー 山を登りに 笛 笛吹けばャェー 峰の小松は みな みな靡くャェー〉と,陰旋法の哀調のこもった中に,津軽独特のユリの技巧が加わった声回しの佳調であるが,明治初年ころからはもっぱら祝いの座敷歌として歌われている。また宮城県の《秋の山歌》や,山形市近郊の《かくま刈歌》(《夏の山歌》)のように,萩取りや薪・炭焼き用の柴木の木伐りの際に歌われる歌もある。
執筆者:浅野 建二
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山歌
さんか / シャンコー
主として中国南方(西南、中南、江南)で聞かれる、漢民族に伝承される即興的民謡。山野で、労作の場で、あるいは祭礼のおりに即興でうたわれる。歌詞は七言四句が基本。伝統的曲調に当てはめてうたわれる。本来、男女が互いに歌をうたい交わす、日本の歌垣(うたがき)と同類の習俗と結び付いており、歌の内容も情歌とよばれる恋歌が多い。
なお、中国南方の少数民族もその多くが歌垣と共通する習俗を色濃く残しており、同様の即興的民謡が盛んにうたわれる。その民謡も中国語(漢語)では山歌とよんでいる。
中国北方の信天游(シンティエンユウ)、花児(ホワル)、爬山歌(パーシャンコー)などとよばれる民謡も、形式が異なるものの、山歌の類だと考えられる。
[菊田正信]
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世界大百科事典(旧版)内の山歌の言及
【民謡】より
…稲扱(いねこき)歌,麦打歌,稗搗(ひえつき)歌,麦搗歌,臼搗歌,粉挽歌,糸引歌,[地搗(じつき)歌]など。(3)[山歌] 山林原野に出て歌う歌。山行歌,草刈歌,木おろし歌,杣(そま)歌,茶山歌など。…
【労作歌】より
… 労作歌には一般に作業を進める刺激として歌うものと,作業の休養の際に歌うものと2種ある。たとえば[田植歌]や麦搗歌(むぎつきうた),木挽歌(こびきうた),[地搗歌](じつきうた),茶摘歌(ちやつみうた),山歌等は前者に,牛追歌,長持歌,駕籠舁歌(かごかきうた)の類は後者に属する。労作歌の中には酒造歌,木挽歌,油絞り歌,漆搔歌(うるしかきうた)等のように,ある一定の期間だけ雇われる季節労働者が歌う〈季節労作歌〉があり,これは比較的共通する歌が多いが,中には〈酒造歌〉のように作業の工程に従って数種の歌があるものもある。…
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