化学辞典 第2版 「医療用加速器」の解説
医療用加速器
イリョウヨウカソクキ
accelerator for medical use, medical accelerator
医療用に用いられる加速器.診断用と治療用の2種類に大別される.診断用には,1900年代当初からX線が用いられてきたが,X線発生装置も電子線で金属ターゲットを衝撃してX線を発生させるので,低エネルギー電子線加速器の一種である([別用語参照]X線管).陽電子放射断層撮影法(PET)は有力ながん早期発見方法であるが,使用される短寿命放射性核種は,診療施設付属の小型陽子サイクロトロンで製造される.軌道放射光X線の診断への利用も研究が進められている.心臓冠動脈の造影撮影(アンジオグラフィー)は,通常のX線管よりはるかに高輝度の放射光X線の利用で,短時間撮影で,かつ心臓より遠い部位での造影剤の静脈注入も可能となり,患者の負担を軽減し安全性が向上する.さらに,X線屈折率の違いによるコントラストを利用するイメージング法も考案され,通常の吸収コントラスト画像より,高い鮮明度が得られるのでがん検診に有利である.治療用の加速器は,がんの放射線治療を目的として設置されているもので,大部分が電子線または電子線変換X線発生用の線形加速器である.重荷電粒子の飛程末端でのエネルギー付与率の急激な増加(ブラッグピーク)を利用すると,人体深部のがん患部を集中的に照射できるので,陽子,重イオンビーム用のサイクロトロンをもつ施設が増加している.当初は高エネルギー物理学用の大型シンクロトロン,サイクロトロンを試験的に使用した.たとえば,カリフォルニア大学Lawrence Berkeley研究所のBevatronは,1954年の運転開始以来,1994年の停止まで,陽子線とヘリウムイオンビーム照射によるがん治療を行ってきた.1990年に治療を開始した南カリフォルニアLoma Linda大学の250 MeV 陽子シンクロトロンが世界最初の医療専用加速器である.その後,とくに日本で医療用シンクロトロンの開発が進み,1994年完成の放射性医学総合研究所の重粒子加速器HIMAC(Heavy-Ion Medical Accelerator in Chiba,陽子230 MeV,炭素イオン C6+ など800 MeV/核子)を皮切りに,2003年現在,国立がんセンター(柏キャンパス)ほか6か所の医療施設に設置されている.炭素イオンビーム照射が可能なシンクロトロンは,兵庫県粒子線治療センターにも設置されて,がん治療に効果を上げている.医療用シンクロトロン,サイクロトロンの一層の小型化の開発研究が進行中である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報