翻訳|synchrotron
リング状に並べた電磁石(リング磁石)で荷電粒子を円形軌道上に拘束し,軌道の途中に置いた高周波空洞で加速する装置(図)。原理は,1945年にソ連のV.I.ベクスレルとアメリカのE.M.マクミランによってそれぞれ独立に考案された。加速する粒子によって電子シンクロトロン,陽子シンクロトロンなどと呼ばれる。加速を受けてもビーム軌道はつねに同じ場所を通るよう,磁場の強さと高周波の周波数を変えている。高周波加速では位相安定の原理が働き,理想値から多少ずれたエネルギーや加速位相の粒子も高周波との同期性を失わないので,これにより,磁場と加速周波数を適切に変化させれば,加速が自動的に進む(シンクロトロン加速の原理)。リング磁石はビームを円弧状に曲げる作用と,細く絞るための収束作用をもつ。収束は軌道と直角な方向にこう配をもつ磁場によって行うが,磁場こう配が一定範囲内であれば,磁石の偏向作用と合わせて,水平,鉛直の両方向に収束作用をもたせることができる(弱収束法)。一方,強いこう配の磁石では,水平,鉛直のいずれか一方向に収束力を働かせると,他方向には必ず発散力が働く。しかし,互いに反対向きの磁場こう配をもつ磁石をうまく交互に配列すると,全体としては強い収束作用をもたせることができる。この方法を強収束法,またはアルターネーティンググラジエントalternating gradient収束法といい,この原理を用いたシンクロトロンをAGシンクロトロンと呼ぶ。光学の収束系にたとえると,弱収束法は弱い凸レンズのみを使う場合であり,後者は強力な凸レンズと凹レンズを組み合わせて使う場合に対応する。強収束を用いるとビームを格段に細くでき,それに応じて磁石も小さくすることができるので,近年ほとんどのシンクロトロンはこの方式になっている。なお,シンクロトロンには,加速粒子の種類や最高エネルギーについて,原理的な制限はない。
→加速器
執筆者:木村 嘉孝
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荷電粒子(電子・イオン)の円形加速器の一種.サイクロトロンでは,向き合った2個のD型の加速空洞に上下方向から磁場をかけて,荷電粒子加速とともに半径が大きくなる円形軌道を走らせるが,シンクロトロンでは,一定半径の円形(リング)に加速管と多数の偏向電磁石,高周波加速空洞を配置して,偏向電磁石により荷電粒子の軌道を曲げ,高周波加速空洞にクライストロンから高周波エネルギーを供給して加速する.高エネルギー大型施設では,電磁石,加速空洞ともに超伝導のものが用いられることが多い.電子シンクロトロンと重イオン・シンクロトロンに大別される.前者の場合,前段加速器の段階で光速近くまで加速されているので,主リング上の回転周波数はほとんどかわらないが,後者では,加速とともに高周波電場の変調が必要である.高エネルギーに達したときの軌道放射によるエネルギー損失は,軌道曲率半径の1乗および粒子静止質量の4乗に反比例するので,電子を加速する場合は莫大なエネルギーを補給するとともに,曲率半径を大きくする必要がある.わが国の高エネルギー加速器研究機構の電子シンクロトロンTRISTAN(32 GeV)直径960 m(1995年実験終了),欧州合同原子核研究機関CERNのLEP-Ⅱ(104 GeV)直径8500 m(2000年実験終了)のように大型であった.陽子シンクロトロンではアメリカのフェルミ研究所のTEVATRON(1 TeV)直径2000 m,2008年に運転を開始したCERNのLHC(7 TeV)直径8500 m がもっとも高エネルギーの施設である.重イオンシンクロトロンとしては,裸の金の原子核まで加速できるブルックヘブン国立研究所のRHIC(100 GeV/核子)直径1200 m が知られている.これらの大型施設は,すべて衝突型であって素粒子研究が目的で,新素粒子発見のために活動中である.東海・大強度陽子計画J-PARCは50 GeV 陽子シンクロトロンである.医療用にも陽子・重イオンシンクロトロンが用いられている.[別用語参照]医療用加速器
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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加速器の一種。
[編集部]
…コッククロフト=ウォルトンの装置ともいう)が実用化され,1932年にはこの装置で加速した陽子を用い,初めての人工的に加速した粒子による原子核破壊の実験に成功した(コッククロフト=ウォルトンの実験と呼ばれる)。45年ごろまでにはこのほか,バン・デ・グラーフ型加速器(1931),サイクロトロン(1930),線形加速器(1931ころ),ベータトロン(1940),シンクロトロン(1945)などの各種の加速器が考案され,これらが今日の加速器の基礎となったが,著しい進歩をもたらしたのは第2次世界大戦後急速に発達した電波工学,エレクトロニクス,真空技術,材料工学などである。加速器のエネルギーは6~7年に約10倍の割合で大きくなっており,シンクロサイクロトロンによってπ中間子が実験室で人工的に創生(1948)されて以来,大加速器を用いての新しい素粒子の発見が相次いでいる。…
…円形軌道をつくる磁場の強さを一定に保ち,高エネルギー粒子ビームを回しながらリング状の真空ダクトの中に貯蔵する形式のシンクロトロン。貯蔵時間は数時間から,長いものは数日にも及ぶ。…
※「シンクロトロン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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