線形加速器(読み)せんけいかそくき(英語表記)linear accelerator

精選版 日本国語大辞典 「線形加速器」の意味・読み・例文・類語

せんけい‐かそくき【線形加速器】

〘名〙 荷電粒子加速器一つ。加速電極に加える電圧をある一定値におさえ、これを幾段か重ねて、常に粒子に加速電位が作用するような構造にしたもの。直線加速器リニアック

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デジタル大辞泉 「線形加速器」の意味・読み・例文・類語

せんけい‐かそくき【線形加速器】

多数の電極を直線上に並べ、適当な高周波電圧を加えて次々と荷電粒子を加速する装置直線型加速器。リニアアクセレレーター。リニアコライダー。リニアック。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「線形加速器」の意味・わかりやすい解説

線形加速器
せんけいかそくき
linear accelerator

粒子を一直線上で加速する加速器。リニアック lineac,ライナック linac,直線加速器ともいう。直線状の真空容器中に,互いに絶縁された多数の円筒を 1列に並べ,これらに高周波電圧を加え,円筒内を走る荷電粒子が隣り合う円筒の間隙にくるときに常に加速電圧を受けるよう,各円筒の長さと周波数が調節されている。近年のものは導波管空洞共振器を使い,円筒内に高周波定在波あるいは進行波を発生させて加速している。円形の加速器であるシンクロトロンに粒子を入射するための前段用の加速器として使われることが多い。しかし近年では,陽子陽電子など,円形の軌道ではシンクロトロン放射によって加速に限界がある,軽い超高速の粒子を加速するための加速器としても重要視されている。代表的なものは,高エネルギー加速器研究機構トリスタンや KEKB,スタンフォード大学SLAC国立加速器研究所などであり,次世代の加速器として計画中の国際リニアコライダー ILCも線形加速器である。
また,小型の線形加速器の放射線医学への応用も進んでいる。線形加速器を用いて病巣に集中的に放射線を照射して破壊する治療は,定位放射線治療と呼ばれる。患部が浅い場合は電子を 400万~3000万eV(電子ボルト)に加速してそのまま照射し,深部の治療では電子をターゲットにあて X線を発生させてそれを照射する。テレコバルト治療装置と比べて照射野が狭く出力が大きいという利点がある。

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化学辞典 第2版 「線形加速器」の解説

線形加速器
センケイカソクキ
linear accelerator

英語名linear acceleratorを略してライナック(linac),リニアック(lineac)ともいう.直線形加速管に大電力高周波電場をかけて荷電粒子を加速する装置.電子加速用と,陽子などのイオン加速用とで,加速原理と構造が異なる.軽い電子はわずかな加速で光速に達するので,電子ビームと同一位相速度の高周波を入力し,進行する高周波電場に電子が“波乗り”のように乗って,エネルギーを増大させる(進行波型).位相速度を光速に保つために,一定間隔に穴あき円板が加速管(導波管)に装備されている.陽子のように重い粒子の場合,加速管は,交互に接続された長さの異なる一連の円筒電極をもち,加速につれて長い電極にして高周波電場(定在波)の半周期と陽子(イオン)の電極ギャップ通過を同期する仕組みになっている(ヴィデレー型,アルバレ型).1924年,スウェーデンのG. Isingが提案し,1928年,R. Wideröeがナトリウムイオンの加速(25 kV,1 MHz)に成功したが,本格的なものは第二次世界大戦中のレーダー用などの大電力高周波発生装置,クライストロンの開発を待って実現された.1947年,L.W. Alvarez(カリフォルニア大学,1968年ノーベル物理学賞を受賞)らによって実現された40フィート陽子線形加速器が世界で最初のものである.その後,ロスアラモス国立研究所(アメリカ)LAMPF(Los Alamos Meson Physics Facility)の800 MeV 陽子線形加速器が1972年に完成.最近,超伝導加速空洞が利用されるようになり,1994年に運用を開始したバージニア州トーマス・ジェファソン国立加速器施設のCEBAF(Continuous Electron Beam Accelerating Facility)は,純ニオブ製の超伝導加速空洞をもつ連続ビーム5 GeV 電子線形加速器である.原子核や素粒子の基礎と応用の研究から,工業,医療にまで広く用いられている.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「線形加速器」の意味・わかりやすい解説

線形加速器 (せんけいかそくき)
linear accelerator

リニアックともいう。荷電粒子を,高周波電場(数十~数千MHz)のかかった多段の電極の間を直線的に通して加速する加速器。原子核,素粒子の実験のほか放射線医療にも利用される。加速は一定周波数で行い,加速によりエネルギーが変化しても,粒子が高周波に対し一定の加速位相で電極を通過するようくふうされている。加速ビームはパルス状で,加速位相のまわりに集群(バンチ)を形成する。数十万eV以上でほとんど光速になる電子の場合は,進行波型という構造を用い,円形導波管に同心の円板電極を挿入,管内の電波の位相速度を粒子の速度に合わせて加速する。質量が大きい陽子などのイオンでは,低エネルギーの間は加速による速度変化が大きく,アルバレ型やビデレー型など特殊構造の加速管が使われる。電子の加速管では,通常1m当り約1000万eVの加速が可能である。スタンフォード線形加速器センター(アメリカ)の装置が最大で,全長約3km,電子を240億eVまで加速できる。
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百科事典マイペディア 「線形加速器」の意味・わかりやすい解説

線形加速器【せんけいかそくき】

リニアックとも。電子,陽子などの荷電粒子を高周波電場で直線的に加速する加速器。中空の円筒電極を一直線に並べ,一つおきに高周波電源につないだもの。わずか加速した粒子を円筒電極の軸方向に入射すると,円筒の長さを適当に選べば(粒子の速度が速くなれば長くする),粒子が電極のすき間を通るごとに同方向の電場が作用して繰り返し加速される。素粒子実験のほか医療・工業用の放射線源としても使われる。またシンクロトロンの入射器の多くが線形加速器となっている。

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世界大百科事典(旧版)内の線形加速器の言及

【加速器】より

…コッククロフト=ウォルトンの装置ともいう)が実用化され,1932年にはこの装置で加速した陽子を用い,初めての人工的に加速した粒子による原子核破壊の実験に成功した(コッククロフト=ウォルトンの実験と呼ばれる)。45年ごろまでにはこのほか,バン・デ・グラーフ型加速器(1931),サイクロトロン(1930),線形加速器(1931ころ),ベータトロン(1940),シンクロトロン(1945)などの各種の加速器が考案され,これらが今日の加速器の基礎となったが,著しい進歩をもたらしたのは第2次世界大戦後急速に発達した電波工学,エレクトロニクス,真空技術,材料工学などである。加速器のエネルギーは6~7年に約10倍の割合で大きくなっており,シンクロサイクロトロンによってπ中間子が実験室で人工的に創生(1948)されて以来,大加速器を用いての新しい素粒子の発見が相次いでいる。…

※「線形加速器」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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