六訂版 家庭医学大全科 「単純ヘルペス脳炎」の解説
単純ヘルペス脳炎
単純ヘルペスのうえん
Herpes simplex encephalitis
(脳・神経・筋の病気)
どんな病気か
重い急性脳炎として知られ、単にヘルペス脳炎とも呼ばれています。病理学的には
日本においては、本症の死亡率は30%と考えられていましたが、抗ウイルス薬の導入以後、10%以下に減り、約30~50%の社会復帰例がみられます。
原因は何か
主として単純ヘルペスウイルス1型(口唇ヘルペス)によります。2型(性器ヘルペス)では
一方、ヘルペスウイルスが
症状の現れ方
急性期には、発熱、髄膜刺激症状、意識障害、けいれん発作が必ず起きる症状とされています。幻覚、記憶障害、
検査と診断
髄液検査では、出血壊死病変に対応して赤血球、キサントクミー(黄色調を呈する現象)がしばしば認められ、細胞増加、蛋白増加がみられます。原則として糖値は正常であることが一般的です。脳波所見は全般的
臨床所見、髄液、脳波、CT・MRI所見、ウイルス学的検査などを参考に診断を行います。早期診断には、髄液からのPCR陽性、酵素抗体での陽性値が有用で、PCR法による髄液からのヘルペスウイルスDNAの検出が迅速診断に威力を発揮し、検出率は60~80%とされています。ヘルペスウイルス抗体測定としては、血清・髄液中のHSVに対する補体結合反応、中和試験などによる方法がありますが、早期診断には髄液からの酵素抗体法で判断します。
しかし、ヘルペスウイルス抗体は健常人でもしばしばもっており、ヘルペスウイルスに対する経時的変動、髄液系での特異的局所産生を示す必要があります。
治療の方法
一般療法として気道の確保、栄養の維持などが重要で、体温、脈拍、血圧、呼吸などのバイタルサイン(生命徴候)の監視も必要です。意識障害の強い急性期には絶食とし、1日1500ml前後の輸液が行われます。二次感染を予防する意味でペニシリン系、セフェム系抗生剤を投与します。抗ウイルス薬(アシクロビル)が第一選択薬とされており、アシクロビル10㎎/㎏を1日3回、1時間以上かけて点滴静注し、14日間続けます。副腎皮質ステロイド薬の併用の有用性も報告されています。遷延した症例などには、ビダラビンが使われます。
けいれん発作、重積にはジアゼパム、フェノバルビタール、ヒダントインの静脈注射、筋肉注射を、けいれん重積には呼吸管理下でのバルビツール酸系の大量(2~3g)の持続点滴注入を行います。脳圧降下薬(グリセロール、マンニトール)の使用も一般的です。
病気に気づいたらどうする
発熱・髄膜刺激症状、意識障害、けいれん発作、幻覚、記憶障害などが現れたら、この病気が疑われます。ヘルペスウイルスによる脳の破壊が進む前に抗ウイルス薬を投与することが大切です。神経内科、内科、小児科などに緊急入院が必要とされています。
庄司 紘史
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報