脳炎(読み)ノウエン(英語表記)encephalitis

翻訳|encephalitis

デジタル大辞泉 「脳炎」の意味・読み・例文・類語

のう‐えん〔ナウ‐〕【脳炎】

脳そのものに起こる炎症。ウイルスの感染による日本脳炎や、ヘルペス風疹ふうしんなどのあとにおこる続発性脳炎などがある。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「脳炎」の意味・読み・例文・類語

のう‐えんナウ‥【脳炎】

  1. 〘 名詞 〙 高熱、頭痛、意識障害、痙攣(けいれん)などを主症状とする脳の炎症性疾患の総称。ウイルス、細菌などの微生物の感染や、物理的・化学的刺激によって起こる。〔医語類聚(1872)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「脳炎」の意味・わかりやすい解説

脳炎 (のうえん)
encephalitis

脳実質の炎症による神経疾患で,病原体の脳実質への直接の影響によるもの,各種感染症に続発したり予防接種後などにおこるアレルギー性機序の考えられるものがある。

(1)病原体が脳実質を直接侵すことによる脳炎 日本脳炎エコノモ脳炎,単純ヘルペス脳炎などをはじめ病原体はほとんどがウイルスである。症状は発熱,頭痛,吐き気,嘔吐などで始まり,意識障害や精神症状を呈するようになる。回復後も後遺症を残すことがまれではない。日本脳炎はカによって伝播されるアルボウイルスによるもので,従来日本で夏季に多発していたが,近年予防接種の普及によりまれなものとなった。エコノモ脳炎は嗜眠性脳炎とも呼ばれるもので,1915-25年に流行したが,その後ほとんど流行はない。大脳基底核が侵され,後遺症として脳炎後パーキンソニズムがみられる点が特徴的である。単純ヘルペス脳炎単純ヘルペスウイルスを病原体とする。側頭葉を中心として浮腫をきたし,小出血巣が散在する壊死性脳炎の像を示す。急激に発病し,症状は重篤であり,致死率が高く,生存例にもさまざまな後遺症を伴う。近年早期から抗ウイルス剤を使用して良好な経過の得られた例の報告もある。そのほかに狂犬病,はしか,風疹,流行性耳下腺炎などでウイルス性の脳炎をおこすことがある。またセントルイス脳炎,カリフォルニア脳炎,ロシア春夏脳炎など地域により独特なものも知られている。

(2)感染症後,予防接種後に発病する脳炎 はしか,水痘,流行性耳下腺炎などの感染症後や種痘,狂犬病ワクチン接種後などに発症するもの,ならびに特別な誘因のないものがあり,急性散在性脳脊髄炎といわれる。発症機序としてはアレルギー性のものが考えられている。感染後あるいはワクチン接種後1~2週して発症する。急激に発病し,発熱,頭痛,嘔吐,意識障害,痙攣(けいれん)などを呈し,運動麻痺,知覚異常なども現れる。病理学的には静脈周囲の細胞浸潤と脱髄が白質に散在している。急性ウイルス性脳炎や膠原(こうげん)病との鑑別が必要となる。副腎皮質ステロイドが有効なことがある。多くは2~3ヵ月で軽快するが,重症例では死亡することもある。イドが有効なことがある。多くは2~3ヵ月で軽快するが,重症例では死亡することもある。

(3)遅発性ウイルス感染症 スローウイルス感染症ともいい,1954年シガードソンB.Sigurdssonにより提唱された概念であり,ウイルス感染後数ヵ月から数十年の長い潜伏期を経て発症し,亜急性進行性に悪化し死亡するものである。動物ではヒツジのスクレイピーscrapieなどが,ヒトではクールークロイツフェルト=ヤコブ病亜急性硬化性汎脳炎進行性多巣性白質脳症などが知られている。クールーはニューギニアのフォレ族にみられる神経疾患であり,ガイジュセックD.C.Gajdusekにより患者の剖検脳乳剤をチンパンジーの脳内に接種することで伝染可能であることが示された。この病気は死者の脳を食べる風習により伝播すると考えられている。クロイツフェルト=ヤコブ病は初老期に発症し,進行性の痴呆と錐体路および錐体外路症状を示し,急速に進行して死亡する。ギッブスC.J.Gibbsらによりチンパンジーへの移植が成功している。病理学的に灰白質の海綿状態を呈することが特徴的である。亜急性硬化性汎脳炎は小児の疾患で,知能低下,人格変化などから始まり,進行性に多彩な神経症状を呈するようになる。原因として麻疹ウイルスとの関連が考えられている。進行性多巣性白質脳症は白血病,悪性リンパ腫サルコイドーシス全身性エリテマトーデス,免疫抑制剤投与後など免疫機能が低下したときに発症する神経疾患で,白質の多発性の脱髄を示す。パポーバウイルスが病変部から分離されている。これら遅発性ウイルス感染症に対する有効な治療法はまだない。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「脳炎」の意味・わかりやすい解説

脳炎
のうえん

脳実質の炎症性疾患で、脳炎症状のほか多少とも髄膜炎症状を伴うところから髄膜脳炎ともよばれる。ウイルスの感染によっておこる脳炎が大部分であり、ウイルス性脳炎viral encephalitisとよばれる。

 ウイルス性脳炎は、急性脳炎、傍感染性(続発性)脳炎、持続性慢性脳炎に大別される。

 急性脳炎には、一次的に向神経性ウイルスが脳に到達して発症する代表的な脳炎と、一次的に髄膜炎をおこし、これが脳実質に波及して二次的に脳炎をおこす髄膜脳炎とよぶのがふさわしいものとがある。症状としては、発熱や頭痛などの一般症状のほか、髄膜炎に特有な項部強直やケルニッヒ徴候などの髄膜刺激症状、意識障害、けいれん、昏睡(こんすい)などをはじめ、その他の病巣症状として眼球しんとう、顔面麻痺(まひ)、運動緩慢などもみられ、髄液にはタンパクや細胞の増多などが現れる。急性脳炎には、もっとも典型的な日本脳炎やセントルイス脳炎などをはじめ、髄膜脳炎の型をとるヘルペス脳炎(単純ヘルペス脳炎、水痘・帯状疱疹(ほうしん)ウイルス脳炎など)や腸管ウイルス脳炎(ポリオウイルス脳炎、コクサッキーウイルス脳炎、エコーウイルス脳炎)、ムンプス(流行性耳下腺(せん)炎)脳炎などがある。

 傍感染性脳炎には、他のウイルス性疾患に続発しておこる感染後脳炎と、予防接種後に発症する脳炎が含まれる。この病因についてはアレルギー説が有力視されていたが、臨床ウイルス学の進歩により、向神経性ウイルス以外のウイルスでも直接脳に侵入して増殖する場合もあることが認められた。感染後脳炎はウイルス感染症の罹患(りかん)中、またはその急性症状が治まってから脳炎のおこる場合をいい、麻疹(ましん)、風疹、水痘などウイルス性発疹症に伴うことが多い。また予防接種後脳炎では、種痘後脳炎が注目されていたが、種痘中止によってその心配はなくなった。しかし、まれではあるが、狂犬病ワクチン、百日咳(ひゃくにちぜき)ワクチン、インフルエンザワクチンなどの接種後に発症することがある。

 持続性慢性脳炎は、亜急性脳炎と慢性脳炎を含み、いずれもスローウイルスによる遅発性ウイルス感染症である。これには、麻疹ウイルス変異株の持続性感染を基盤とする亜急性硬化性全脳炎をはじめ、パポーバウイルスの持続性潜在性感染による進行性多巣性白質脳症、およびニューギニア東部高地に住むフォレ語族に限局してみられた小脳性運動失調を主徴とするクールーkuruなどがあるが、いずれも予後はきわめて不良である。

[柳下徳雄]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

家庭医学館 「脳炎」の解説

のうえん【脳炎 (Encephalitis)】

 脳実質(のうじっしつ)(脳そのもの)に炎症がおこるのが脳炎で、とくにウイルスが感染しておこることが多いものです。細菌の感染でおこると脳膿瘍(のうのうよう)(コラム「脳膿瘍」)となります。
 ウイルスが直接、脳に感染しておこる脳炎は、日本では、単純ヘルペス脳炎(「単純ヘルペス脳炎」)と、日本脳炎(「日本脳炎」)が代表的なものです。
 まれに、はしか(麻疹(ましん)(「はしか(麻疹)」))、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎(りゅうこうせいじかせんえん)(「おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)」))、水痘(すいとう)(水ぼうそう(「水痘(水ぼうそう)」))、風疹(ふうしん)(「風疹(三日ばしか)」)などのウイルス感染症にかかった後に脳炎になることがありますが、たいていは発熱、頭痛程度で治ります。
 このほかに、かぜのような症状が現われた後1~2週間して発症する急性散在性脳脊髄炎(きゅうせいさんざいせいのうせきずいえん)(「急性散在性脳脊髄炎(アデム)」)と呼ばれる特殊な病気があります。
 また、ウイルスの感染を受けてから、かなり月日がたって発症してくる、遅発性(ちはつせい)ウイルス脳炎(のうえん)(「遅発性ウイルス脳炎」)もあります。

出典 小学館家庭医学館について 情報

百科事典マイペディア 「脳炎」の意味・わかりやすい解説

脳炎【のうえん】

脳の炎症性疾患の総称。日本脳炎その他の流行性脳炎と,続発性脳炎に大別。後者は,はしか,猩紅(しょうこう)熱,インフルエンザ,水痘などの伝染病や,重金属中毒などの経過中または経過後に起こるもので,高熱,意識障害,痙攣(けいれん)などの症状があり,麻痺(まひ)などの後遺症を残すことがある。治療は抗ウイルス薬や副腎皮質ホルモン剤の投与など。
→関連項目チック(医学)トキソプラズマひきつけ

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「脳炎」の意味・わかりやすい解説

脳炎
のうえん
encephalitis

脳の炎症。流行性脳炎とその他のものに分けられる。流行性脳炎には,第1次世界大戦後ウィーンを中心に大流行した病原未確認の嗜眠性脳炎と,病原ウイルスの確認されている日本脳炎のようなものがある。その他の脳炎としては,インフルエンザ,麻疹,ポリオ,腸チフス,百日咳,狂犬病など各種の感染症の経過中や経過後に発症するもの,あるいは種痘後脳炎などがある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の脳炎の言及

【ヘルペス脳炎】より

…ヘルペスウイルスにより脳に急性炎症性の病変をきたす疾患。脳炎を起こすヘルペスウイルスとしては,単純ヘルペスウイルス,帯状疱疹ウイルス,サイトメガロウイルスなどがあるが,以下は単純ヘルペス脳炎について述べる。 単純ヘルペスウイルスは1型と2型があるが,この疾患は1型ウイルスにより起こる。…

※「脳炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

大臣政務官

各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...

大臣政務官の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android