改訂新版 世界大百科事典 「叙景歌」の意味・わかりやすい解説
叙景歌 (じょけいか)
和歌を性格上から分類した用語。自然の風物を主観を交えず客観的に表現した歌。したがって叙事詩などとともに抒情詩と対立する概念の歌をいうが,和歌は本来抒情詩の一種と見るべきものであり,主観を排した表現であっても自然の風物そのものが作者の感情の象徴的表現となっていると考えられる場合が多く,純粋な叙景歌は求めにくい。要は和歌の本質に即した分類とは言えず,概念にもあいまいさが残る。しかし,日本では自然の景観への関心が《万葉集》時代から発達し,後世ますます深化して叙景的要素の濃い歌が多く作られているのも否定できず,それらを便宜叙景歌と呼ぶこともできよう。〈天の海に雲の波立ち月の船星の林に漕ぎ隠る見ゆ〉(《万葉集》巻七),〈見渡せば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦なりける〉(《古今集》巻一),〈駒とめて袖うち払ふかげもなし佐野のわたりの雪の夕暮〉(《新古今集》巻六)などがその例である。
執筆者:橋本 達雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報