和歌(読み)ワカ

デジタル大辞泉 「和歌」の意味・読み・例文・類語

わ‐か【和歌/×倭歌】

漢詩に対して、上代から行われた日本固有の詩歌。五音と七音を基調とする長歌短歌旋頭歌せどうか片歌かたうたなどの総称。平安時代以降は主に短歌をさすようになった。やまとうた。
万葉集の題詞にみえる「こたふる歌」から》答えの歌。返し歌。
(ふつう「ワカ」と書く)能で、舞の直後または直前にある謡物うたいもの。詞章は短歌形式を基本とする。
[類語]大和歌

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精選版 日本国語大辞典 「和歌」の意味・読み・例文・類語

わ‐か【和歌・倭歌】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 漢詩に対して、日本の歌。長歌・短歌・旋頭歌・片歌など五・七音を基調とした定型詩であるが、歌体の消長に伴って短歌が和歌を意味するようになった。漢詩に対する和歌の意識は「万葉集」の大伴家持などにすでに見られるが、歌論として明確に自覚されたのは「古今和歌集」の序文においてであろう。歌謡・連歌・俳諧・近代詩などは和歌の範囲から除外されている。やまとうた。うた。国歌。
    1. [初出の実例]「この和歌はつかうまつりたりとなむ思ひ給る」(出典:源氏物語(1001‐14頃)玉鬘)
  3. 和して歌う歌。答の歌。また、詩。
    1. [初出の実例]「和歌慙郢曲、濫吹愧斉竽」(出典:南郭先生文集‐初編(1727)三・九月六日猗蘭台集)
    2. [その他の文献]〔孫逖‐和左司張員外〈中略〉贈韋侍御等諸公詩〕
  4. 能楽で用いる語。
    1. (イ) 舞の際謡い物一般をいう。短歌形式を原則とし、高音で謡われるもので、祝言的な要素を持つ。→補注。
      1. [初出の実例]「旅の舟路の門出のわか、ただひとさしと勧むれば」(出典:謡曲・舟弁慶(1516頃))
    2. (ロ) 謡曲の小段の一つ。舞の前後にかけて謡われ、性格は(イ)と類似する。
      1. [初出の実例]「作者も、発端の句、一せい、わかなどに、人体の物まねによりて、いかにも幽玄なる余情、たよりをもとむる所に」(出典:風姿花伝(1400‐02頃)六)
  5. 歌舞伎下座音楽の一つ。時代狂言幕切れに立役と敵役とが詰合(つめあい)になり「かたがたさらば」という時に用いる鳴物。「片しゃぎり」と同じ手法を用いるので、「片しゃぎり」の古名といえる。
    1. [初出の実例]「ト和歌(ワカ)になり、皆々立廻りあって」(出典:歌舞伎・四天王楓江戸粧(1804)六立)

和歌の補助注記

(イ)については、延年の舞の「若音(わかね)」から転じたという説もある。

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百科事典マイペディア 「和歌」の意味・わかりやすい解説

和歌【わか】

和歌は,漢詩すなわち〈からうた〉に対する日本の歌つまり〈やまとうた〉の意。〈倭歌〉とも書いた。記紀歌謡にうかがわれる,リズムと旋律をもち,舞踊の所作をともなった歌謡に発したものとされ,《万葉集》の開花をみた。歌体としては短歌のほかに長歌旋頭(せどう)歌片歌など伝統的定型詩を含むが,長歌その他は万葉集以後,次第に影をひそめ,和歌といえば直ちに短歌をさすようになった。また連歌,俳諧,俳句,近代詩はふつう和歌に含めない。
→関連項目歌会始縁語歌学歌論久曽神昇序詞本歌取り枕詞物名琉歌

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「和歌」の意味・わかりやすい解説

和歌
わか

「やまとうた」すなわち日本の国の固有の歌を意味するが、その概念は平安時代の『古今和歌集』の成立によって確立したので、具体的な和歌の歌体としては、その当時固有の歌体として認められていた短歌・長歌および旋頭歌(せどうか)・仏足石歌(ぶっそくせきか)体をさすことになり、それが現代に至るまで狭義の和歌の範囲となってきている。五音節句と七音節句との繰り返しによる音数律が基本となって、五七五七七の短歌、五七を三回以上繰り返して七で結ぶのが基本形式の長歌、五七七(それだけを片歌(かたうた)とよぶ)を二度繰り返す旋頭歌、それと奈良の薬師寺の仏足石碑に刻まれた、短歌形式にさらに七の加わった歌体の仏足石歌体があり、それぞれ『万葉集』にもみいだせる。『万葉集』所収歌の大部分は短歌、ついで長歌であり、長歌は、特定の場合や『万葉集』尊重と結び付いて間欠的につくられつつ現代に至るが、絶えることなくつくられ続けたのは短歌で、和歌史は短歌史といいかえていいほどである。現存する歌集の最初は『万葉集』であり、平安時代から室町時代にかけて勅撰(ちょくせん)和歌集21集が成立しているが、そのほか私撰集・私家(しか)集も多い。近代になるとほとんど個人歌集である。短歌から連歌(れんが)が分化し、それが俳諧(はいかい)(連句(れんく))を生じたし、短歌形式のものでは優美さから外れた狂歌(きょうか)や、風刺性をもつ落首(らくしゅ)、教訓のための道歌(どうか)、さらには歌(うた)占いやまじない歌まで、日本の伝統詩歌には短歌に根ざすものが多く、歌謡形式にも大きな影響を与えている。和歌研究のための歌学は平安時代末期にすでに体系化され、以後日本の古典(文化)学の中軸となり続けてきたことにも注意しなければならない。

[藤平春男]

『新編国歌大観編集委員会編『新編国歌大観』全10巻20冊(1983~87・角川書店)』『和歌文学会編『和歌文学講座』全12巻(1969~70/再版・1984・桜楓社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「和歌」の意味・わかりやすい解説

和歌 (わか)

〈からうた〉(中国の詩)に対する〈やまとうた〉(日本の歌)の意であり,〈倭歌〉と書くこともあった。実際にその指すところは短歌であることがほとんどであるが,長歌,旋頭歌,片歌などの伝統的定型詩をも含めて和歌と呼んでいる。ただし歌謡,連歌,俳諧,俳句,近代詩は和歌に含めることはなく,また,近代以後の短歌も和歌と呼ぶことは少ない。以上が,現在一般的に用いられている意味での〈和歌〉の定義である。しかし細かく言えば,時代的にその意味するところは移ってきている。すなわち,《万葉集》では〈和(わ)する歌〉〈和(こた)ふる歌〉,つまり合わせる歌,答える歌の意味で用いられている。それがやがて〈やまとうた〉の意味に用いられるようになってゆく。万葉時代,すでに大伴旅人山上憶良のように中国文学に精通していた歌人,大伴家持のように自覚的な文芸意識を持っていた歌人たちは,当然もう中国の詩に対する日本の歌という自覚を持って創作に当たっており,そうした歴史を経て,《古今集》の序文が〈やまとうたは,人の心をたねとして,万(よろず)の言(こと)の葉とぞなれりける。(中略)この歌,天地(あめつち)のひらけ初まりける時よりいできにけり〉と,〈やまとうた〉独自の在りようと歴史とを明確に提示し,漢詩とはちがう和歌の位置づけを積極的に行ったのであった。《万葉集》で採用された,出自を中国に持つ〈相聞〉〈挽歌〉といった部立名が排され,《古今集》では〈恋歌〉〈哀傷歌〉の部立名を採用しているのも,〈やまとうた〉の独自性を主張しようとの意識に拠っていた。それが,やがて漢詩を対立的にとらえる意識が減じ,長歌など短歌以外の歌体が衰退するに及んで,〈和歌〉はもっぱら〈短歌〉と同じ意味で用いられ,連歌や俳諧に対する呼称となったのであった。このほか,〈和歌〉は,〈敷島(しきしま)の道〉〈国歌〉などと呼ばれることもあった。
短歌
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「和歌」の意味・わかりやすい解説

和歌
わか

日本で最も古くから行われている詩歌形態。「倭歌」とも書く。「やまとうた」と訓読することもあり,「大和歌」と書くこともある。『万葉集』の題詞で「和歌」と表記した場合の「和」は「唱和」の意に用いられているが,のちには「倭歌」「和歌」のいずれを書いても,漢詩に対する日本の歌を意味するようになった。なお,「国歌」といういい方もある。集団的な感情を歌う歌謡から発展したもので,歌謡と異なって,特定の作者が存在し,その個性的な感情や思想が盛られているのが普通。また,和歌も古くは朗吟するなど音楽的要素もあったが,のちには文字言語を主たる表現手段とするようになった。この点も歌唱を基本的な表現手段とする歌謡と異なる。上代には,長歌,短歌,旋頭歌,仏足石歌体,混本歌など種々の形態が行われていたが,平安時代以降,短歌が中心となり,長歌,旋頭歌などは「雑体」といって,試作される程度にすぎなくなった。近代,現代においては,短歌以外の形態はほとんど行われていない。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「和歌」の解説

和歌
わか

倭歌・国歌とも。からうた(漢詩)に対するやまとうた(日本の歌)の意であるが,実際には短歌を主として長歌・旋頭歌(せどうか)・片歌(かたうた)などの範囲に限られ,歌謡・連歌・俳諧・近代詩などは含まれない。「万葉集」に「倭歌」と表記した1例が初見で,「古今集」仮名序で紀貫之(きのつらゆき)が「やまとうた」と明示,日本固有の文芸として賞揚した。短歌以外の歌体が衰微し始め,漢詩を意識することも徐々に薄れてきてからは,短歌と同義に用いるようになるが,短歌の名称が和歌にとってかわるのは明治期の短歌革新運動以後で,和歌の語は古典和歌のみをさし,近現代の和歌は短歌とよばれるようになった。

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旺文社日本史事典 三訂版 「和歌」の解説

和歌
わか

日本古来の短歌で,漢詩 (からうた) に対する大和歌 (やまとうた)
集団的な生活の表現として生まれた歌謡が,貴族社会において,文字の普及と個人意識の目ざめにより,読んで味わう,個性的心情表現の叙情詩として飛躍的発展をとげた。奈良時代に最古の和歌集として『万葉集』が編まれ,みずみずしい日本人の心を歌い,以後『古今和歌集』『新古今和歌集』,明治時代以後の「アララギ派」など,時代によって叙情の質は変化したが,一貫して日本の叙情詩の中心を占めてきた。古くは長歌・旋頭歌・仏足石歌などの歌体もあったが,平安時代以後は五七五七七の31文字の短歌のみをさすようになった。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「和歌」の解説

和歌 わか

?-? 平安時代後期の女性。
京極宗輔の娘。「平家物語」「源平盛衰記」には,鳥羽上皇のとき島千歳(しまの-せんざい)とともに白拍子をはじめたとあり,遊女としての白拍子の起源と考えられている。箏(そう)の名手で,男子装束を身につけていたので若御前と称されたという。

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世界大百科事典(旧版)内の和歌の言及

【短歌】より

…ここでの〈敷島〉は〈敷島の大和〉の意味で,古くからの日本の道といった意味での呼称である。また,〈和歌〉あるいは,ただ単に〈うた〉と呼ばれることもある。短歌は,長歌旋頭歌(せどうか)などとともに和歌の歌体の一つであったが,他が時代とともにすたれていったのに対して,短歌だけが持続的に支持を得てきた。…

【文語体】より

…文語体は,さらに多くの種類にわかれる。和文,和歌の文,宣命(せんみよう)体,漢文訓読文,和漢混淆(こんこう)文,変体漢文,普通文など。これらのうち,和文以下変体漢文までは,平安時代にすでにその形が整っており,以後現代にまで引き続き行われたものである。…

【やまと絵】より

…その文献的な研究によれば,〈倭絵〉は〈唐絵〉とともに大画面の障屛(しようへい)画形式の絵画に対して用いられ,両者は画題上の区別であり,様式的な差異を意味するものではなかったことが指摘されている。唐絵が中国の故事・風俗を屛風・障子に描いたのに対し,やまと絵は日本の題材を描いた屛風・障子絵であり,しかも成立当初から,当時の和歌愛好の気運と深く結びついていた。四季の自然や人事,各地の名所などを歌った和歌の興趣深い情景を絵画的イメージとして画面に定着させるとともに,画題となった和歌を,色紙形に能筆の手で書き添えることで,歌と絵と書の3者を一体として鑑賞する方式を生み出したのである(歌絵)。…

※「和歌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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