日本大百科全書(ニッポニカ) 「唐獅子文」の意味・わかりやすい解説
唐獅子文
からじしもん
西洋風の写生的なライオンに対して、空想的な要素を多く含む東洋風の獅子を唐獅子とよんでいる。中国ではまず後漢(ごかん)時代(1~3世紀)に西域(せいいき)の影響を受けた写生風な獅子像がつくられたが、これは唐代(7~10世紀)を境にしだいに衰退してゆく。一方その後これにかわってトラに近い空想の獅子、つまり唐獅子の定型ができあがってゆく。とくに明(みん)代(14~17世紀)になると石工、金工、刺しゅうなど多くの工芸分野にこの模様が取り上げられた。
日本の獅子文は、中国の影響を受けて生まれたと考えられ、飛鳥(あすか)時代の狩猟文錦(にしき)(法隆寺蔵)や、奈良時代の獅子文錦(正倉院宝物)などに、ライオン風な模様も若干みいだせるが、大半は唐獅子で、室町時代以後は、牡丹(ぼたん)と組み合わされた獅子牡丹文が流行した。
[村元雄]