唐船(能)(読み)とうせん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「唐船(能)」の意味・わかりやすい解説

唐船(能)
とうせん

能の曲目。四番目物。五流現行曲。古くは「祖慶官人(そけいかんにん)」とも。日本と中国の船争いで捕らえられた祖慶官人(シテ)は、13年の抑留生活中に日本で生まれた2人の子供(子方)とともに、牛馬を飼う労働に使役されている。中国で成長した子供たち(子方2人)は、多くの宝と交換に父を救出に来航する。支配者の箱崎の某(なにがし)(ワキ)はそれを了承するが、日本で生まれた子は日本に残せと厳命する。父は、船にも乗らず、陸にもとどまるまいと、投身自殺を計る。取りすがる4人の子供たち。親子の情けに箱崎はともに帰国を許し、その唐船の上で祖慶は喜びの舞を舞い、本国へと去っていく。狭い作り物の船上でのびやかに舞う演技がむずかしい。国際紛争を描いた異色の作品である。

増田正造

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例