日本大百科全書(ニッポニカ) 「地方の聞書」の意味・わかりやすい解説
地方の聞書
じかたのききがき
江戸時代の民政に関する心得を記した地方書(じかたしょ)の一つ。1冊。元禄(げんろく)年間(1688~1704)、紀州伊都(いと)郡学文路(かむろ)村(和歌山県橋本市)の地方(じかた)役人大畑才蔵(おおはたさいぞう)が著したもので、『才蔵記』ともいう。本書の意図は地方役人の心得るべき条項を説述することにあり、その構成は「田園集序」と「地之善悪(ちのよしあし)、修理(しゅうり)、肥(こやし)」以下22項目からなる。経済的にかなり進んだ時代と場所とを背景として書かれたもので、その特色は、著者が村役人であるところから、領主側の立場と農民側の立場との両方から書かれていることで、土木技術に優れた知識が各所にみられ、全体としても合理的、計画的、経済的、歴史的、数量的な優れた見解が示されている。『近世地方経済史料』第2巻、『日本農書全集』第28巻所収。
[三橋時雄]
『飯沼二郎編『近世農書に学ぶ』(1976・日本放送出版協会)』▽『『橋本市史 中巻』(1974・橋本市)』