改訂新版 世界大百科事典 「天下茶屋物」の意味・わかりやすい解説
天下茶屋物 (てんがぢゃやもの)
歌舞伎,浄瑠璃にあらわれる大坂住吉街道の天下茶屋の仇討をテーマとした作品。歌舞伎では1781年(天明1)12月9日より大坂角の芝居藤川山吾座で上演した《大願成就 殿下茶屋聚(てんがぢややむら)》(並木十輔,奈河(ながわ)亀輔合作)が最初。これは天下茶屋の仇討事件を近江源氏の世界に脚色したもので好評を博し,翌年2月まで続演した。この作品と並行して81年12月16日から中の芝居山下金作座でも《連歌茶屋誉文台(れんがぢややほまれのぶんだい)》(奈河七五三助(しめすけ),増山金八合作)を上演した。翌年1月11日から京都の中山座でも《殿下茶屋聚》が上演された。浄瑠璃では96年(寛政8)1月に奈川支宇助,筒東喬合作による《讐報春住吉(かたきうちはるのすみよし)》9段が成立した。この作が歌舞伎化されたのは1832年(天保3)8月大坂中の芝居上演の《絵本天下茶屋聚》である。《大願成就 殿下茶屋聚》が江戸に入り,35年7月に中村座で《松主殿下茶屋聚(まつをあるじてんがぢややむら)》の名題で上演されたとき新工夫が加わり後世に及んだ。
執筆者:関山 和夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報