安全保障関連法案(読み)あんぜんほしょうかんれんほうあん

知恵蔵 「安全保障関連法案」の解説

安全保障関連法案

2015年に第3次安倍政権が国会に提出した「国際平和支援法」及び「平和安全法制整備法」の二つの法案のこと。集団的自衛権の行使を可能にすることを目指すもので、前者は国際的な有事に際して外国の軍隊に協力支援を行うことを可能にし、後者自衛隊法など安全保障に関わる10本の法律改正を一括して行う。国民の大多数は説明不十分とし、野党などの強い抗議の中、15年7月15日に衆院本会議で可決された。
太平洋戦争での敗戦後、日本は平和憲法を掲げ日米安全保障条約の下で専守防衛を旨としてきた。1980年代後半から東西冷戦終結に向かうと、国際社会の軍事的緊張は、中東などでの地域紛争や内戦に集中し始めた。このような背景から、米国を中心とする国際社会からは、日本に対して自衛隊派遣など相応の軍事的貢献を求める圧力が強まった。こうした流れに沿って、湾岸戦争後に自衛隊のペルシャ湾派遣が行われ、92年には国際平和維持活動(PKO)協力法も制定された。また東アジアの軍事均衡も変化が生じ、97年には、日米防衛協力のための基本方針「日米ガイドライン」が朝鮮半島有事を念頭に置いて見直され、自衛隊が米軍を支援するとした周辺事態法も定められた。2001年の同時多発テロなどを契機として米国は「テロとの戦い」を標榜(ひょうぼう)し、中東地域への介入や軍事行動を強めると共に、日本にも応分の軍事的役割を求める傾向が強まった。こうして15年には安倍政権がかねてから主張していた「積極的平和主義」や「集団的自衛権」を色濃く反映した「日米新ガイドライン」が合意された。こうした中で、自由民主党は本来、安全保障の根幹的方針を定める「国家安全保障基本法」をまず制定すると公約に掲げていたが、安倍政権はこれを事実上放棄して、関連法制の修正を進めることとなった。安全保障関連法案は「国際平和支援法」制定や10本の既存法の改正だけで、基本法を定めることなしに集団的自衛権行使を合法化しようというもの。基本法制定は先送りとし、個別法の改正などで、当面の集団的自衛権行使の根拠とすることになる。「戦争しない国」から「戦争する国」へ変えようとするものだと国民各層の強い批判や懸念が示されている。また、改憲派法学者や保守穏健派からも、内容もさることながら、法の制定手法や構成などが民主主義の精神に反するのではないかといぶかる声が上がっている。

(金谷俊秀 ライター/2015年)

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