武力攻撃事態等において、日本の平和と独立等を確保するために政府が行う対処措置の基本理念、国・地方公共団体等の責務、国民の協力その他の基本となる事項を定めた法律。正式名称は、「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」。平成15年法律第79号。2003年(平成15)6月に、安全保障会議設置法の改正法、自衛隊法の改正法とともに、いわゆる有事関連三法の一つとして制定された。政府防衛当局にとっては、1963年(昭和38)の三矢(みつや)研究以来の懸案であった有事法制の整備をいちおう実現したことになるが、この法律に関しては、憲法第9条に違反するのではないかとの疑義などさまざまな問題点も指摘された。
「武力攻撃事態等」には「武力攻撃事態」と「武力攻撃予測事態」が含まれるが、前者は「武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態」を意味し、後者は「武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」を意味するとされる。ただ、これによっても、「武力攻撃事態等」の意味内容はかならずしも明確にはなっていないとの批判がある。また、政府見解では「武力攻撃事態等」と周辺事態法(「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」)にいう「周辺事態」との「併存」の可能性を認めているので、両者の関係も問題とされた。
政府は、武力攻撃事態等に至ったときには、対処基本方針を定め、内閣に対策本部を設置する。対処基本方針では、武力攻撃事態等の認定、武力行使を含む対処措置に関する重要事項などが定められる。内閣総理大臣は、対処基本方針について閣議決定があった場合にはただちに国会の承認を求めなければならない。ただし、防衛出動命令については、原則として事前の国会の承認が必要とされる。対策本部長は、地方公共団体の長、指定公共機関等に対して対処措置に関する総合調整を行うことができる。このような総合調整に基づく所要の対処措置が実施されない場合には、内閣総理大臣は、指定公共機関や地方公共団体の長等に必要な対処措置を実施すべきことを指示することができる。そして、このような指示に基づく所要の措置が実施されない場合などにおいては、内閣総理大臣は、自らまたは当該対処措置に係る事務を所掌(しょしょう)する大臣を指揮し、当該対処措置を実施し、または実施させることができる。
さらに、武力攻撃事態等に際しては、国民も「必要な協力をするよう努める」ものとされる。その際、国民の基本的人権の制限は必要最小限に限られ、「日本国憲法第14条、第18条、第19条、第21条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない」とされる。ただ、立入検査拒否者や物資の保管命令違反者に対する罰則(自衛隊法第124条~126条)など、武力攻撃事態等における人権制限については、憲法上の疑義も出されている。なお、この法律の制定時には、いわゆる国民保護法制の整備は行われず先送りされたが、翌2004年6月に他の関連7法と同時に、「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」(国民保護法)が制定された。
[山内敏弘]
武力攻撃事態法は、2015年9月に成立した平和安全法制整備法(正式名称「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律」平成27年法律第76号)に伴って改正され、名称も「事態対処法(正式名称は「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」)」と改められた(2016年3月29日施行)。
[編集部 2017年10月19日]
『全国憲法研究会編『憲法と有事法制』(2002・日本評論社)』▽『水島朝穂編著『世界の「有事法制」を診る』(2003・法律文化社)』▽『森本敏・浜谷英博著『有事法制――私たちの安全はだれが守るのか』(2003・PHP新書)』▽『憲法再生フォーラム編『有事法制批判』(2003・岩波新書)』▽『内外出版編、西修監修『詳解有事法制――国民保護法を中心に』(2004・内外出版)』▽『山内敏弘著『立憲平和主義と有事法の展開』(2008・信山社)』
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