日本大百科全書(ニッポニカ) 「山ことば」の意味・わかりやすい解説
山ことば
やまことば
山で働く人たちが、山では使ってはならないとしていることば。転じて言い換えのことばをもいう。俗信の禁忌のうち忌みことばの一種。忌まれることばは、山の神や山の神の使令(つかわしめ)とされる動物、ひいては狩猟対象の動物一般に及ぶ。天狗(てんぐ)を今の人、河童(かっぱ)を旅の人、猿を山の人などと言い換える。山の神や動物の好物も忌まれ、塩をカエナメ、みそをサギなどという。狩猟道具の鉄砲をスルベ、たばこは人の居所を動物に知られるのでハナクサという。これらは隠語に近いものである。去る、落とすなど縁起の悪いことばも忌まれる。言い換えことばの造語法は、兎(うさぎ)を耳長というような直接的なものもあり、猿をキムラサンというなどは、人からみて猿の行動は気持ちにむらがあるようにみえるからであり、連想によるものが多い。水をワカ、犬をセタというなどはアイヌ語の混入である。山ことばに対して一般のことばを、野良(のら)ことばとも里ことばともいう。
[井之口章次]