年金不信(読み)ねんきんふしん

知恵蔵 「年金不信」の解説

年金不信

2007年7月の参議院選挙の最大の争点は、年金問題であった。社会保険庁のずさんな記録管理によって、約5000万件の納付記録が誰のものであるか帰属が明らかでないという事態が明るみに出た。これは、長妻昭衆議院議員など、民主党の議員が国会で粘り強く追及した結果である。長年保険料を納付してもその記録が消えていては年金を受給できないと、国民の不安は高まった。 政府は当初国民の不安をあおることを避けるとして、記録の追跡について消極的であったが、世論批判の前に、07年5月に加入者すべてについて保険料納付記録を統合する名寄せを行うと表明した。 しかし、年金に対する国民の信頼が回復されたとはいえない。保険料の納付と記録の管理という事務処理体制の信頼性と並んで、年金制度そのものの信頼性についても問題がある。非正規雇用の増加によって多くの労働者が厚生年金ではなく、国民年金の加入を義務付けられるようになったが、低賃金の非正規雇用労働者は保険料を納付する余裕がないため、国民年金の納付率は低下している。雇用形態の変化に対応した年金制度の整備は急務である。

(山口二郎 北海道大学教授 / 2008年)

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