原則として20歳以上60歳未満が加入する公的年金。自営業者らが加入し保険料を納めている。2023年度の保険料は月1万6520円。失業した人や所得が少ない学生らを対象に、保険料の納付を免除や猶予する制度がある。利用した場合、将来受け取る年金額が少なくなるが、10年以内なら追納することができる。会社員らは、国民年金に上乗せする形で厚生年金にも加入している。
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日本の公的年金制度のなかで、全国民共通の基礎年金とともに、自営業者などに対する独自の年金を支給する制度。国年(こくねん)と略称される。
[山崎泰彦 2023年6月19日]
国民年金は、1959年(昭和34)の国民年金法に基づいて制定され、1961年4月から全面的に施行された。国民年金は、厚生年金保険および共済年金の対象外であった農林漁業などの自営業者や零細事業所の労働者を対象として発足し、これにより国民皆年金体制が実現した。ただし、被用者年金(国民年金の第2号被保険者)の加入者の妻と20歳以上の学生への適用については、例外的に任意加入とされ、将来の課題として残された。以下はその後の改正の主要事項である。
(1)1985年改正 全国民共通の基礎年金の導入による年金制度の一元化、給付水準の適正化と将来の負担増の緩和、被用者年金加入者の配偶者に対する国民年金強制加入による女性の年金権の確立、20歳前に障害者となった者などに対する障害基礎年金の支給などによる障害年金の改善、1人1年金の原則による併給調整。
(2)1989年(平成1)改正 20歳以上の学生への強制適用、任意加入制の国民年金基金の創設。
(3)2000年(平成12)改正 65歳以後の年金額改定の物価スライド方式への一本化、保険料半額免除制度および学生の保険料納付特例制度の導入。
(4)2004年改正 基礎年金の国庫負担割合の引上げ、最終保険料を固定したうえで給付水準を自動調整するマクロ経済スライド方式の導入、保険料の多段階免除制度の導入。
(5)2012年改正 老齢基礎年金等の受給資格期間の25年から10年への短縮、基礎年金国庫負担割合2分の1の恒久化、父子世帯に対する遺族基礎年金の支給。
(6)2016年改正 第1号被保険者の産前産後期間の保険料免除、年金額改定ルールの見直し。
(7)2020年(令和2)改正 国民年金手帳から基礎年金番号通知書への切替え、未婚のひとり親等を寡婦と同様に国民年金保険料の申請全額免除基準等(支払い全額免除の対象)に追加。受給開始時期の選択肢の拡大。
[山崎泰彦 2023年6月19日]
国民年金の被保険者は3区分されている。
(1)第1号被保険者 日本国内に住所のある20歳以上60歳未満の者であって、以下の第2号・第3号被保険者でない者
(2)第2号被保険者 厚生年金保険の被保険者
(3)第3号被保険者 第2号被保険者の被扶養配偶者であって、20歳以上60歳未満の者
なお、国民年金の被保険者資格には国籍要件はない。当初は日本国民を対象者としていたが、難民条約批准に伴う改正により、1982年1月から国籍要件が撤廃され、国内に住所のある外国人も被保険者とされている。
[山崎泰彦 2023年6月19日]
全被保険者共通の老齢基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金のほかに、第1号被保険者のみの独自給付である付加年金、寡婦年金、死亡一時金、脱退一時金がある。
(1)老齢基礎年金 原則として、受給資格期間が10年以上ある者が65歳に達したときに支給される。受給資格期間は、保険料納付済期間、保険料免除期間、合算対象期間を合計した期間である。保険料納付済期間には被用者年金の加入期間を含む。合算対象期間とは、老齢基礎年金の受給資格期間には算入するが年金額の計算の基礎には含めない「カラ期間」で、外国に居住していた期間、被用者年金加入者の配偶者や学生であって加入が任意とされていたときに任意加入しなかった期間などである。支給開始年齢については、60歳以上65歳未満での繰上げ(減額)支給、66歳以上75歳以下での繰下げ(増額)支給を選択することもできる。年金額(年額)は、新規裁定者(67歳以下)の満額が79万5000円(2023年度)で、20歳から60歳になるまでの40年間に保険料の未納期間や免除期間があれば、その期間に応じて減額される。ただし、国民年金が発足した1961年4月に20歳以上であった者には、年齢に応じた期間短縮措置がある。
(2)障害基礎年金 障害の原因となった傷病の初診日において被保険者であった者などで、初診日前に保険料納付済期間と保険料免除期間をあわせた期間が被保険者期間の3分の2以上あり、かつ障害認定日に1級または2級障害の状態のある者に支給される。年金額(年額)は、1級障害99万3750円、2級障害79万5000円である(いずれも2023年度新規裁定、67歳以下)。その他、初診日において20歳未満であった者にも、20歳以後障害の状態にあれば、本人の所得が一定額以下であることを条件として、障害基礎年金が支給される。
(3)遺族基礎年金 国民年金の被保険者で保険料納付済期間と保険料免除期間をあわせた期間が被保険者期間の3分の2以上ある者、老齢基礎年金の受給権者、老齢基礎年金の受給資格期間を満たした者など、いずれかの要件を満たした者が死亡したとき、その者によって生計を維持していた子のある配偶者または婚姻していない子に支給される。子とは、18歳到達年度の末日までの子または20歳未満であって1級・2級の障害の状態にある子である。年金額(年額)は、配偶者と子1人の場合102万3700円(2023年度新規裁定、67歳以下)で、2人目以降の子についての加算がある。
(4)第1号被保険者の独自給付 付加年金は任意加入制の基礎年金の上乗せ給付で、付加保険料の納付済期間に応じて支給される。寡婦年金は、第1号被保険者としての加入期間のみで老齢基礎年金の受給資格期間を満たしている夫が年金を受けないで死亡したとき、妻に60歳から65歳になるまでの間支給される。死亡一時金は、第1号被保険者として保険料を3年以上納めた者が、老齢基礎年金、障害基礎年金のいずれをも受けないで死亡し、その遺族が遺族基礎年金を受給できない場合に、遺族に支給される。脱退一時金は、第1号被保険者としての保険料納付済期間が6か月以上ある外国人で年金を受けられない者が、帰国したとき支給される。
[山崎泰彦 2023年6月19日]
毎年の基礎年金の給付費は、全被保険者(第1号被保険者については保険料納付者、第2号被保険者については20歳以上60歳未満)が頭割りで負担する。具体的には、第1号被保険者は個別に保険料を負担し、第2号および第3号被保険者分の保険料は、厚生年金保険から基礎年金拠出金として一括して納付する。国庫負担は基礎年金給付費の2分の1である。
国民年金の第1号被保険者の保険料(月額)は、1万6520円(2023年度)である。この保険料は、基礎年金の給付費分のほかに、第1号被保険者の独自給付および積立に回る分も含む。任意加入の付加年金の保険料は月額400円である。第1号被保険者の保険料については、法定免除、申請免除、産前産後期間免除の制度があり、保険料の納付が免除される。法定免除となるのは、生活保護法の生活扶助を受けるときや、障害基礎年金の受給権者などである。申請免除となるのは、所得がない者や、生活保護法による生活保護以外の扶助を受けるとき、その他保険料の納付が困難であると認められるときなどで、申請により保険料の全額、4分の3、2分の1、4分の1が免除される。産前産後期間(出産予定日の前月から4か月間)については保険料の全額が免除される。その他、学生を対象とする納付特例制度と50歳未満の被保険者を対象とする納付猶予制度があり、学生については、本人の所得が一定額以下の場合、50歳未満の被保険者については本人と配偶者の所得が一定額以下の場合に、申請により保険料の納付が猶予される。保険料免除等を受けた期間は、年金給付の受給資格期間に算入され、老齢基礎年金の年金額の算定にあたっては、法定免除と申請免除の期間については国庫負担相当分の給付、産前産後期間については保険料全額納付者と同額の給付がつく。一方、保険料の学生納付特例と納付猶予を受けた期間については、老齢基礎年金の年金額には反映されず、その分は減額になる。障害基礎年金と遺族基礎年金については、保険料免除等を受けた期間があっても、減額されることなく全額が支給される。これらの保険料免除等を受けた期間分の保険料は、10年以内の期間分に限って追納できる。
なお、保険料の滞納による無年金・低年金を解消する観点から、一定の負担能力があり、保険料免除等の対象にならない者であって、保険料を長期滞納している者については、所得や納付の状況などを踏まえつつ、最終催告状が送付され、それでも自主的に納付しない者については、滞納処分(財産の差押え)が行われる。
[山崎泰彦 2023年6月19日]
『みずほ総合研究所編著『図解 年金のしくみ』第6版(2015・東洋経済新報社)』▽『吉原健二・畑満著『日本公的年金制度史――戦後七〇年・皆年金半世紀』(2016・中央法規出版)』▽『『国民年金法総覧』隔年版(社会保険研究所)』▽『『社会保険のてびき』『年金のてびき』『国民年金ハンドブック』各年版(社会保険研究所)』▽『厚生労働統計協会編・刊『保険と年金の動向』各年版』
国民皆年金を実現するため,被用者年金制度(厚生年金保険および共済年金)の適用されない20歳以上60歳未満の自営業者等を対象として1959年に制定された国民年金法によって創設され,無拠出制(全額国庫負担)の福祉年金は同年11月,一定期間の加入を条件とする拠出制年金は61年4月に実施された。その後,85年改正による基礎年金の導入と2階建て年金への再編成により,86年4月から全国民を対象とする年金制度となり,2階建て年金の1階部分(基礎年金)の役割を担っている。
被保険者は,2階部分の給付の有無や保険料の納付方法等の違いにより,次の3種に区分されている。(1)第1号被保険者:日本国内に住所のある20~60歳未満の者で第2号・3号被保険者でない者。(2)第2号被保険者:厚生年金保険の被保険者または共済組合の組合員。(3)第3号被保険者:第2号被保険者の被扶養配偶者(健康保険の被扶養者に相当する者)で20歳以上60歳未満の者。その他,強制加入の対象者ではないが,日本国内に住所のある60歳以上65歳未満の者(第2号被保険者の該当者を除く)や,日本国内に住所のない20歳以上65歳未満の日本人などは,第1号被保険者として任意加入することができる。なお,当初の国民年金は,日本国内に住所のある日本国民を被保険者としていたが,難民条約の批准にともなう国内法の改正により,1982年1月から国籍要件が撤廃され,国内に住所のある外国人も被保険者とされている。
給付には,全国民共通の基礎年金と自営業者等の第1号被保険者のみの独自給付がある。基礎年金には,老齢基礎年金,障害基礎年金,遺族基礎年金があり,いずれも一定期間の加入を条件として支給される。第1号被保険者の独自給付は,次の4種類である。(1)付加年金:老齢基礎年金に上乗せする任意加入制の給付で,付加保険料(月額400円)の納付者が65歳に達し老齢基礎年金の受給権を得たとき支給される。年金額(年額)は〈200円×保険料納付済月数〉である。(2)寡婦年金:第1号被保険者としての保険料納付済期間と保険料免除期間をあわせた期間が原則として25年以上ある夫が死亡した場合に,死亡当時夫により生計が維持され,10年以上婚姻関係が継続していた65歳未満の妻に60歳から支給される。年金額は,夫が生存していれば受給するはずであった第1号被保険者にかかる老齢基礎年金の額の3/4である。(3)死亡一時金:第1号被保険者として保険料を3年以上納めた者が,老齢基礎年金,障害基礎年金のいずれも受給しないで死亡し,その遺族が遺族基礎年金を受給できない場合に,保険料納付済期間に応じた額が支給される。(4)脱退一時金:国民年金の第1号被保険者としての保険料納付済期間が6ヵ月以上ある外国人で年金の受給権を取得できなかった者に,保険料納付済期間に応じた額が支給される。
基礎年金の給付費は,全被保険者が負担する保険料と国庫負担により賄われる。その場合,第1号被保険者は個別に保険料を負担するが,第2号および第3号被保険者の負担分は,各被用者年金制度が被保険者数に応じて基礎年金拠出金として一括して負担する(つまり,厚生年金保険および共済年金の保険料のなかに,本人と被扶養配偶者分の基礎年金の保険料が含まれていることになる)。国庫負担は,原則として基礎年金給付費の1/3であるが,20歳前障害等による障害基礎年金の給付費については40%である。第1号被保険者の保険料は定額(1998年度は月額1万3300円)であるが,この保険料には,基礎年金の給付分の他に,第1号被保険者の独自給付および当面の積立てにまわる分が含まれる。なお,第1号被保険者の保険料は定額であるため,低所得者にとっては逆進的な負担になっている。そのため,第1号被保険者のみの保険料免除制度が設けられており,生活保護のうち生活扶助を受けている者,障害基礎年金の受給権者,その他の低所得者などについては保険料の納付が免除される。保険料免除期間は年金給付の資格期間に算入され,老齢基礎年金の年金額の計算では保険料納付済期間の1/3の給付がつく。また,免除期間分の保険料は,10年以内の期間分に限ってさかのぼって納付できる。
国民年金は,発足当初から次のような三つの大きな問題を抱えていた。(1)農業や商工業の自営業者などをおもな加入者としていたため,産業構造の変化の影響を受けて,厚生年金保険などに比べて成熟度(加入者に対する受給者の割合)が高くならざるをえず,財政基盤が弱体であること。(2)法律上は強制加入とはいえ,強制力が乏しいために実際上は自主加入,自主納付制になっていて,若年層や都市部を中心に未加入者が多く,加入者のうちでも保険料の滞納者が多い。そのため,無年金者や低額年金の受給者の発生が避けがたいこと。(3)所得の的確な捕捉が困難であるため,応能負担原則に基づく所得比例の保険料を徴収できないこと,であった。このうち,(1)の問題は1985年改正による基礎年金の導入により解消した。この改正で,被用者にも国民年金の適用を拡大し,基礎年金部分の成熟度が国民全体の年齢構成に等しいレベルに平均化されたからである。(2)の問題のうち未加入者については,1997年1月に導入された基礎年金番号制により,未加入者をほぼ完全に把握することが可能になった。だが,保険料の滞納や(3)の問題への対応は依然として大きな課題になっている。このような残された問題を完全に解消するために,全額国庫負担制に切り替えるべきだとか,当面,基礎年金に対する国庫負担を引き上げて保険料負担を軽減すべきだといった提案も行われている。
→年金
執筆者:山崎 泰彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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(梶本章 朝日新聞記者 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…第2は厚生年金グループで,民間の給料生活者が対象である。第3は国民年金で,主として自営業者が対象だが,給料生活者でも5人未満の事業所は原則として国民年金の適用を受け,また任意加入の規定によって給料生活者の妻も数多く加入してきた。8制度といわれたのは,共済組合グループには国家公務員共済組合,地方公務員等共済組合,公共企業体職員等共済組合(以上の3者は公的な職域),私立学校教職員共済組合,農林漁業団体職員共済組合(後2者は民間の特殊な職域)の五つがあり,また厚生年金グループには厚生年金のほかに船員保険(厚生年金とほぼ同じ内容を船員に適用)があるので,これに国民年金を加えて8制度と称したのである。…
※「国民年金」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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