日本大百科全書(ニッポニカ) 「国会」の意味・わかりやすい解説
国会
こっかい
衆議院および参議院で構成される二院制の議会をいう(憲法42条)。国会という名称は、1880年(明治13)国会期成同盟が成立して以来広く用いられていた。1889年明治憲法(大日本帝国憲法)が制定されて、帝国議会といわれるようになったが、第二次世界大戦後の占領下の1947年(昭和22)日本国憲法が施行されて、国会と改称された。同年5月20日第1回国会が開かれた。
[池田政章]
国会の地位
国会は主権を有する国民を代表しその意思を実現する国家機関であり、憲法は「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である」(41条)と定めている。国権の最高機関とは、主権者である国民を直接に代表し、その意思を実現する地位を占めるという意味において政治的に最高であるということであり、唯一の立法機関とは、国会による立法以外の立法は原則として許されず、かつ国会の立法権は完結的なもので、他の機関の参与を必要としないことを意味する。ただし、憲法は例外として、議院規則の制定権を国会各議院に(58条2項)、最高裁判所規則の制定権を最高裁判所に(77条)認めている。
[池田政章]
国会の構成
両院制
明治憲法では、貴族院と衆議院で構成されていた。日本国憲法が制定されるとき、GHQ(連合国最高司令部)から提示された案は一院制であったが、日本政府の主張により両院制(二院制)を採用、参議院と衆議院で構成されることになった。
両院のおもな組織上の違いは、(1)議員定数が異なる、(2)議員任期が異なる、(3)被選挙年齢が異なる、(4)選挙区が異なる、などであり、組織上ではそれほど根本的な違いはないが、権能の点で両者の間には大きな違いがある。
〔1〕衆議院の優越性 欧米諸国にみられるように、下院は国民の意思を直接代表するものとする伝統的な考え方に従って、下院に相当する衆議院の権限は参議院よりも強大である。たとえば、参議院のもたない内閣不信任決議権を有し、予算案を先議し、法律案の議決、予算の議決、条約の承認、内閣総理大臣の指名などにおいて、衆議院の議決が参議院の議決に優先する。これを跛行的両院制(はこうてきりょういんせい)とよぶが、このような衆議院(下院)の優越は、一般に現代の民主国家において共通の現象である。
〔2〕参議院の特質 参議院に期待されているものは、衆議院の「数の政治」に対して、その軽率や行きすぎを是正し「理の政治」を行うことであり、国民に基礎を置きながら政党の争いの外にたち、中立公正な知識を結集することである。当初、議員は政党に属さず、是々非々主義をとる緑風会に属する者が多数いたが、しだいに政党化の方向をたどり、緑風会は1965年の通常選挙で消滅した。その後、参議院の政党化はますます顕著になり、その代表的機能が衆議院と変わらなくなって、両院制のもつメリットが失われるに伴い、その存在理由について種々議論されてきた。そして、全国区については、とくに選挙費用がかかりすぎる、選挙運動がたいへんであるなどの理由によって、一定の要件を備えた政党・政治団体の作成する候補者名簿による比例代表選出方法が公職選挙法改正(1982年8月)によって採用された。そのため、いっそう政党中心の傾向が進んでいる。
[池田政章]
国会の組織
〔1〕議員定数 衆議院は1947年から長い間行われてきた中選挙区制が1994年(平成6)小選挙区比例代表並立制に改められ、議員定数は小選挙区選出289人、比例代表選出176人である。参議院は当初、全国区100人と地方区152人の選挙制度で、衆議院と異なる構成になるように始められたが、1982年に全国区は比例代表制に変更され、比例代表選出100人、選挙区選出148人となった。そのため両院は似たようなものとなり、参議院は「衆議院のカーボン・コピー」と評されてもいる。議員定数の配分については国勢調査の結果によって更正することになっており、衆議院議員では、中選挙区制のときには4回の手直しが行われ、さらに1994年に小選挙区比例代表並立制が採用された。参議院議員についても1994年以降、数度の手直しが行われた。以上の手直しにもかかわらず、人口移動により、各選挙区間にみられる議員定数の不均衡はいまだに解消されていない。このような較差は選挙権の平等に反するとして、衆参両議院いずれについても、その違憲を主張する訴訟が何度も起こされている。
〔2〕役員 衆参各議院には議長、副議長、仮議長、常任委員長、事務総長の役員が置かれる。議長、副議長は各1名で任期はおのおの議員としての任期による。議長は、議院の秩序を保持し、議事を整理し、議院の事務を監督し、議院を代表する。議長に事故があるとき、または議長が欠けたときには副議長が、議長・副議長がともに事故があるときには、仮議長を選挙し、議長の職務を行う。常任委員長は、各議院の常任委員のなかから選挙される。事務総長は、各議院において国会議員以外の者から選挙され、議長の監督のもとに議会の事務を統理し、公文に署名する。
〔3〕委員会 各議院の委員会には常任委員会と特別委員会の2種類がある(国会法40条)。常任委員会は衆議院、参議院ともに17、議員は少なくとも一個の常任委員となる。特別委員会は、各議院においてとくに必要があると認めた案件、または常任委員会の所管に属さない特定の案件を審査するために随時設置される。常任委員および特別委員は、各会派の所属議員数の比率により各会派に割り当てて選任される。明治憲法下の帝国議会では、本会議を中心にして議案の審議が行われたが(本会議中心主義)、現在は委員会を中心にそれが行われている(委員会中心主義)。そのため委員会は、国会の活動の重要な組織として位置づけられ、小立法府とよばれることもある。この制度は、各議院における審議を能率的ならしめるためには、少数の議員からなる委員会で十分に審議を尽くし、それが終わってから議院の会議(本会議)にかけるのが便利だという考えに基づいている。
〔4〕両院協議会 衆参両議院はそれぞれ独立して議事を行い議決するが(独立活動の原則という)、例外として、両議院にまたがる両院協議会が開かれることがある。すなわち議案について両議院の意見が対立した場合に、両者の間に妥協案を成立させる目的で設けられる。必要があったときに一院が他院に向かって開くことを求め、他院がこれに応じたときに開かれる。メンバーは各議院で選挙されたおのおの10人の委員で組織される。
〔5〕付置機関 各議院には事務局および法制局が設置され、また国会には国立国会図書館および弾劾裁判所が設置される。事務局には事務総長、参事そのほかの職員が置かれる。法制局は議員の法制に関する立案に資するために置かれ、法制局長、参事その他の職員によって構成される。国立国会図書館は、議員の調査研究に資するとともに、行政・司法の各部門および国民一般に対し図書館奉仕を提供するために設置される。また弾劾裁判所は罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するために設置される。
[池田政章]
議員
国会議員は全国民を代表する地位に置かれ、特定の地方、党派、職業の代理人ではない。またその活動について、選挙人その他なんぴとの意思や指図にも拘束されることがないとされるが、現実には政党による拘束が強く、また一定地域あるいは選出母体の利益代表という性格を負わされていることも否定できない。
衆議院議員は定数465人、任期4年で、被選挙資格は満25年以上。参議院議員は248人、任期6年で、被選挙資格は満30年以上である。
議員はその職責を十分に果たすことができるように、免責特権(憲法51条)、不逮捕特権(憲法50条)の特典が与えられているほか、歳費請求権(憲法49条)を有する。また、それぞれの議院の活動に参加する権能として、発議権、質問権、質疑権、討論権、表決権をもつ。議員は少なくとも一個の常任委員となり、本会議、委員会に出席する義務がある。院内の秩序を乱した議員は懲罰に付せられる。
[池田政章]
国会の権能
国会は一般に立法府とよばれているように、「国の唯一の立法機関」として、法律の制定をはじめ、憲法改正の発議、予算の議決、条約の承認など、広く国の立法に関する権能をもっている。同時に「国権の最高機関」としてそれにふさわしい国政上の重要な権能、たとえば内閣総理大臣指名権、裁判官弾劾権などを有する。国会の権能の行使については、両議院は別々に会議を開き、別々に議決をするわけであるが、両院の議決が一致することが必要で、この点で、両院がそれぞれ単独で行使する「議院の権能」とは区別される。
[池田政章]
立法に関する権限
立法とは、形式的意味では法律を制定する作用で、発案、審議、議決、署名(主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署する)、公布(天皇が公布し、官報に掲載される)の段階で行われる。法律案は議員によって発議されるほか、内閣もこれを提出することができる。内閣にも法律案の提出権があるかについて学説は分かれるが、通説はこれを認め、実際にも行われており、実状は内閣提出法案の数がその大半を占めているが、議員提出の法案が増加する傾向がみられる。議員が法律案を発議するには、衆議院においては議員20人以上、参議院においては議員10人以上(予算を伴う場合は、それぞれ50人以上、20人以上)の賛成が必要である。法律案が発議または提出されると、議長はただちにこれを所管の常任委員会に付託し、審議はこの常任委員会を中心に展開され、本会議にはそれほどの力点は置かれていない。法律案は両議院で可決したとき法律となる。衆議院で可決した法律案について、参議院でこれと異なった議決をしたときは、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数でふたたび可決すれば、衆議院で議決した内容で法律として成立する(憲法59条)。
憲法改正案については、各議院はその総議員の3分の2以上の賛成による発議だけをなし、最終決定は国民投票の結果にゆだねられる。
予算の議決については、法律案と異なり、まず先に予算案が衆議院に提出される(衆議院の予算先議権という)。予算審議で問題となるのは、国会が修正権をもつかどうかという点であるが、減額修正は自由にでき、増額修正は内閣の予算作成権を害しない程度なら認められると解されている。
条約の承認は、内閣が締結した条約について、原則として事前に、またときによって事後になされる。国会の承認がなければ条約の効力は生じないと解する説が有力である。また国会が条約の修正権を有するかという点について、肯定説、否定説の両説があるが、否定説が有力である。
[池田政章]
一般国政に関する権限
内閣総理大臣の指名権、裁判官弾劾裁判権のほか、法律が定める緊急事態の布告の承認(警察法74条)、自衛隊の防衛出動・治安出動の承認(自衛隊法76条・78条)などを有する。まず、内閣総理大臣は、国会の議決によって国会議員のなかから指名されるが、その際、国会は、他のすべての案件に先だって内閣総理大臣の指名を行うことになっている(衆議院の優越が認められる)。この権能は、衆議院の内閣不信任決議権と相まって、議院内閣制の基礎をなす。
次に、裁判官の弾劾については、いわゆる同僚裁判を避けて、国会議員によって構成される裁判官訴追委員会(各議院から各10人を選挙)が訴追し、弾劾裁判所(各議院から各7人を選挙)が、裁判官に重大な職務上の義務違反や非行があったかどうかを判断し罷免の適否を決する。弾劾裁判所は国会の機関ではないので、閉会中もその職務を行うことができる。
[池田政章]
財政に関する権限
憲法は「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない」(83条)と規定し、財政立憲主義の原則を定めた。まず租税を課したり、現行の租税を変えるときは法律によらなければならない(84条)。これを租税法律主義という。次に、国の収入をどのように支出するかについて国民が監督すべきであるから、予算は国会の議決が必要とされる(86条)。さらに、予算によって定められた支出が現実に守られたかどうかを検査する必要があり、会計検査院がそれを行うが、国会は検査報告とともに内閣から提出された決算を審議し、内閣にその責任を問うことができる(90条)。内閣は国会に対して国の財政状況について報告しなければならない(91条)。
[池田政章]
議院の権能
両議院が共同して行う権能を国会の権能というのに対し、各議院が単独に行使しうる権能を議院の権能という。このなかには、両議院に共通に認められるものとして、法律の発案権、自律権、国政調査権、請願の受理などがあり、衆議院にのみ認められるものとして、予算の先議権、内閣不信任決議権などがあり、参議院は緊急集会中の権能を有する。
[池田政章]
自律権
自律権とは、両院がそれぞれ独立して議事を開き、審議・議決する権利である。そこで各院は他の機関から干渉を受けることなく十分に審議を尽くすために、おのおのその内部組織や運営、および内部規律について自主的に決定しうる権限が与えられている。議員の資格に関する争訟を議院自らが裁判する権限、議長その他の役員を選任する自主組織権、議院規則制定権(衆議院規則、参議院規則、参議院集会規則などがあり、その効力は法律に劣る)、議員の懲罰権(懲罰の種類に、戒告、陳謝、登院停止、除名がある)、議員の有する不逮捕特権の例外として会期中にその議員の逮捕を許諾するかどうかを決定する権能、および会期前に逮捕された議員について会期中釈放を要求する権能などがそれである。
[池田政章]
国政調査権
国会が立法府としてまた国民代表機関としての職責を果たすためには、国政に関して一般的な調査権をもつことが必要である。そのため国政調査権は、広く立法、行政、司法、財政に関する事項など国政全般に及び、それらに対する監督的権能(とくに行政に対して)を果たすことが期待されている。事実、これまでに、国会はこの調査権に基づいて、昭電疑獄事件、炭鉱国管事件、ロッキード事件など数々の汚職の摘発などに大きな成果をあげてきた。ただし司法権の独立を侵すような調査、これに準ずる検察権に対する調査、公務員の守秘義務に属する事項に関する調査については限界があり、また人権侵害になるような調査方法は行われてはならないとされる。
[池田政章]
内閣不信任決議権
衆議院のみがもつ権能であり、議院内閣制を基礎づける重要な権能である。これに対して内閣は衆議院の解散権をもつ。参議院の場合は、内閣の責任を追及する手段として問責決議案を提出することがあるが、法的な効力はなく、事実上の責任追及手段にすぎないと解されている。
[池田政章]
国会の活動
〔1〕会期 国会の活動がなされる期間を会期といい、常会、臨時会、特別会の3種類がある。
〔2〕常会・臨時会・特別会 常会は毎年1回1月に召集され、会期は150日間。臨時会はいずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があった場合、臨時に召集され、特別会は総選挙後30日以内に召集される。臨時会・特別会の会期の長さ、および会期の延長は、両議院一致の議決で定めるが、一致しないとき、または参議院が議決しないときは、衆議院の議決が優越する。通常、議院内閣制のたてまえから、政府の意図が実現されるので、政府の便宜的な会期延長に対し、野党が強く反対して国会が混乱に陥ることがある。延長は、常会が1回、臨時会・特別会は2回しか許されない。
〔3〕召集 会期を開始させる行為を召集といい、内閣の助言と承認により天皇が召集するが、いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は臨時会の召集を決定しなければならない。
〔4〕休会 日本国憲法は、明治憲法のような停会を認めていないが、両議院一致の議決による国会の休会と、各議院の議決による各議院の休会(10日以内)を認めている。
休会は、国会または議院が活動を休止することをいい、国の行事、年末年始、そのほか議案の都合によって行われる。俗に「自然休会」とよばれるのは、議決によらず慣例上または申合せによってする休会で、年末年始の休会などがこれにあたる。
〔5〕衆議院の解散 解散は議員の任期をその満了前に終結させる行為で、内閣の助言と承認に基づいて天皇が行う。衆議院だけに認められ、参議院にはない。解散は国会会期中に行われ、会期もそれと同時に終了する。参議院は閉会となる。日本国憲法によれば、内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、あるいは信任の決議案を否決したときは、衆議院を解散するか、総辞職するかのいずれかを選ばなければならない(憲法69条)とされているが、前述した場合に限らず、憲法第7条に基づいて、内閣は理由があると認めたときは随時、解散の決定を行うことができると解されている。たとえば、衆議院がそのときの国民の世論を代表する程度につき疑いがあると認められる場合、新たに重大な政治上の事件が生じた場合、内閣がその政策の根本的な変更を行おうとする場合などが考えられる。衆議院が解散されたときは、解散の日から40日以内に衆議院議員の総選挙が行われる。
〔6〕参議院の緊急集会 国会はつねに開会できる態勢にあることが望ましいが、衆議院解散後新国会が成立するまでの間は、国会を召集することが不可能である。そこで、この期間中に国会の議決を要する緊急の必要が生じたとき、参議院に国会の権能を臨時に代行せしめるために設けられたのが、参議院の緊急集会の制度である(憲法54条2項)。内閣の求めによって開かれ、そこで決められたことは、次の国会開会ののち10日以内に衆議院の同意を得る必要がある。緊急集会はこれまでに1952年(昭和27)、1953年の2回開かれたことがある。
[池田政章]
国会の議事法
国会の議事手続は、その活動を能率的に行わせることを目的とする。したがって、多数派の発言に対し権威を認めると同時に、少数派の発言も十分に保障しなければならない。その点、二大政党が対立し、政局が安定していれば、議事手続に関し問題は起こらないが、小党分立の場合には、各政党を尊重する立場から議事法の解釈をしなければならない。
〔1〕定足数と表決 合議制は、つねに全員が同時に集合して意思を決定することは事実上困難である場合が多く、普通、一定数の出席があればよいとされ、この一定数を定足数という。議事の定足数(会議として活動できる定数)、議決の定足数(意思を決定することのできる定足数)は、本会議については総議員の3分の1、委員会は委員の半数で、表決は原則として出席議員の過半数で決し、可否同数のときは議長(委員長)が決する。
〔2〕公開の原則 国会の活動は、公開を原則としている(ただし委員会などではこの原則はかならずしも認められていない)。ただ、出席議員の3分の2以上の多数の議決で秘密会となることがある。会議についての傍聴の自由、報道の自由が認められ、国民は各種のマス・コミュニケーションを通じて会議の内容を知ることができる。傍聴には、議員の紹介によるほか、先着順に傍聴券が配布される。公開の原則に基づき、両議院はおのおのその会議録を保存、公表、かつ一般に頒布しなければならないことになっている。
〔3〕一事不再議・会期不継続の原則 一事不再議とは、議院において一度議決が決まったのちは、同じ案件について、同会期中に重ねて審議することを許さない原則をいう。
また、同一の会期で議決に至らなかった案件は、各議院で継続審査の議決を得ない限り、次の会期に継続しないという「会期不継続の原則」も同様に認められている。
[池田政章]
『大石眞著『議会法』(2001・有斐閣)』▽『浅野一郎・河野久編著『新・国会事典』第2版(2008・有斐閣)』