強襲揚陸艦(読み)きょうしゅうようりくかん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「強襲揚陸艦」の意味・わかりやすい解説

強襲揚陸艦
きょうしゅうようりくかん

ヘリコプターを用いて揚陸部隊の強襲上陸作戦を行う、航空母艦型船型を有する揚陸艦総称。1950年代に大型輸送ヘリコプターを用いて、上陸地点の遠方洋上より揚陸部隊の兵員器材物資を迅速に揚陸させる強襲揚陸方式が創案され、アメリカとイギリスは既成艦をこの目的に改造し試験運用、実戦試用などに供した。その実績により、アメリカが1961年に完成したイオー・ジマ級Iwo Jima Class(満載排水量1万8300トン)が初の強襲揚陸艦で、揚陸部隊約2000名(海兵1個大隊)と所要器材を収容、約24機の輸送ヘリコプターを搭載した。本艦種は以後、兵員収容、貨物搭載、迅速な輸送と揚陸、指揮通信の各能力の向上が図られ、1隻でバランスのとれた兵員と装備の輸送と揚陸が可能な艦の建造が進められた。ヘリコプターでは重装備品が輸送不能のため艦型を増大し、重装備品を輸送可能な汎用揚陸艇LCU)4隻またはエアクッション揚陸艇(LCAC)1隻収容のウェルドック(船渠(せんきょ))を船体の後半部に設けた、タラワ級Tarawa Class(3万9967トン、1976年完成)が建造された。ついでその拡大改良型でLCAC3隻を収容可能とし、ヘリコプターのほかにV/STOL(ブイストール)攻撃機の運用能力を強化して多用途性を高めた、ワスプ級Wasp Class(4万0650~4万1772トン、1984年完成)が建造された。2010年時点で建造中のアメリカ級America Class(4万4850トン)では、揚陸艇にかえて重装備品輸送能力の高いV/STOL輸送機を搭載、ウェルドックを設けず揚陸部隊の収容数を増し、V/STOL戦闘機の適宜装備も予定して航空機運用能力の大幅強化を図っている。ほかの国は少数の保有にとどまり、イギリスは既成空母を改造使用ののちイオー・ジマ級に類似の艦を新造、イタリアは軽空母兼用の艦を建造、ともに揚陸艇を搭載するがウェルドックはもたない。フランスと韓国はタラワ級と類似方式だがはるかに小型の艦を建造、スペインとオーストラリアはウェルドックを備え、発艦滑走距離を短縮するよう艦首部にスキージャンプ勾配を設けてV/STOL戦闘機の運用も念頭に置いた艦を建造中(2010年時点)である。日本海上自衛隊の「おおすみ」級は類似の艦型だが、固有のヘリコプターと格納庫をもたず、ドック型揚陸艦の範疇(はんちゅう)に属する。

[阿部安雄]

『『世界の艦船第569号 特集 最近の揚陸艦』(2000・海人社)』『『丸第668集 特集・現代の万能艦ヘリ強襲艦』(2001・潮書房)』『『世界の艦船増刊第84集 世界の揚陸艦』(2009・海人社)』『Stephen SaundersJane's Fighting Ships 2010-2011(2010, Jane's Information Group)』

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