ヘリコプター(読み)へりこぷたー(英語表記)helicopter

翻訳|helicopter

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘリコプター」の意味・わかりやすい解説

ヘリコプター
へりこぷたー
helicopter

回転翼航空機一種機体の前後方向に対してほぼ垂直な1本または複数の軸に、2枚またはそれ以上の細長い翼(回転翼、ローターrotor)を配置し、エンジンによってこの翼を回転させ、翼に発生する揚力を加減したり、回転翼が描く面(回転面または円板面)を傾けることにより、空中に浮かんだり飛行方向への推進力を得る。普通の飛行機と同じように空中を飛行するほか、地上滑走なしに離着陸したり、左右への横ばい飛行や後退飛行、空中停止(ホバーリングhovering)などを行うことができる。

[落合一夫]

歴史と型式

回転翼による飛行の構想は古く、15世紀末のレオナルド・ダ・ビンチの螺旋(らせん)面回転翼機のスケッチにそれを見ることができる。しかし、その後の400年ほどの間は、多くの人々に試みられながら、軽くて高出力のエンジンが得られずに実現しなかった。1907年、フランスのブレゲーが4個の回転翼をもつマルチローター方式のヘリコプターをつくり、不安定ではあったがごく短時間の浮揚に成功した。1920年にはスペインのド・ラ・シェルバJuan de la Cierva(1895―1936)がオートジャイロの開発に関連して回転翼の独特な現象を発見、その構造を改良し、さらにスペインのペスカラRaoul Pescaraが画期的な同時ピッチ制御を発明した結果、回転翼の性能は著しく進歩した。1935年、ブレゲーはこれらの成果を導入して、同一駆動軸上の2個の回転翼を上下に重ねて配置し、互いに逆方向に回転させる同軸反転式回転翼ヘリコプターを製作した。1937年にはドイツのフォッケHeinrich Fockeが、機体の左右に互いに逆方向に回転する回転翼を配置した並列回転翼式ヘリコプターをつくり、どちらも短時間ではあったが本格的な飛行に成功した。1940年、アメリカでシコルスキーが1個の主回転翼と機体の方向や姿勢を制御する1個の尾部回転翼をもつ単回転翼式ヘリコプターを、パイアセッキFrank Piasecki(1891―1972)が互いに逆方向に回転する2個の回転翼を機体の前後に配置したタンデム回転翼式ヘリコプターを、またカマンCharles Kamanは並列する回転翼の間隔をきわめて狭くして互いに交差回転させる交差反転式ヘリコプターを完成し、現在のヘリコプターの基礎ができあがった。

 ヘリコプターが本格的に実用化されたのは第二次世界大戦後期から1950年の朝鮮戦争にかけてである。この時期に、シコルスキー社が機首にエンジンを配置し、斜め上方に軸を通して回転翼を駆動するという画期的な型式を開発し、重心位置付近に人員・物資を搭載する広い空間を設けることができるようになった。さらに軽量・小型で高出力のタービンエンジンの実用化によってヘリコプターの性能は大幅に向上し、20~30人乗りの旅客輸送や、重量物の吊(つ)り上げ専用など用途に適した機体もつくられるようになった。また、ヘリコプターの型式も機構、重量、性能などの面から実績に基づいて絞られ、現在は単回転翼式、タンデム回転翼式、同軸回転翼式の三つが主流となっている。

[落合一夫]

原理

機体の前後軸にほぼ垂直な回転軸の周りに翼を回転させ、各回転翼の取り付け角(ピッチ角)を同時に加減し(同時ピッチ制御)、回転翼の揚力を増減させることによって上昇、下降、空中停止を行う。また、回転翼のピッチを回転面内で周期的に変化させる(ピッチ周期制御)ことによって、回転翼の描く円板面を傾け、操縦士の思う方向に進ませる。しかし実際には回転翼が回転しながら機体が進むと、回転翼は非対称の相対風を受けることになって、機体が動揺し、翼自体もまた強い遠心力を受けながらピッチを変えなければならないなど、技術的な問題が多い。そのため、回転翼にフラッピングヒンジflapping hingeとドラッギングヒンジdragging hingeを設けて機体の動揺や振動を防いでいる。回転翼にはこのほかに操縦用として、ピッチを変えるフェザーリングヒンジfeathering hingeが必要である。この三つのヒンジをもつ型式の回転翼を全関節式、フラッピングヒンジとフェザーリングヒンジの二つをもつものを半関節式、フェザーリングヒンジだけのものをリジッド型という。大型機はほとんど全関節型である。半関節型のうち2枚の回転翼が交互に上下するものをシーソー回転翼といい、小型機に用いられている。リジッド型の回転翼はもっとも古い型式であるが、動揺・振動が多いので用いられなかったが、材料や設計の進歩で問題点が解決し、現在は主として小型機に採用され、最大速度の向上に貢献している。

[落合一夫]

性能

ヘリコプターの前進速度が速くなると、円板面の前進側の回転翼の相対風速が大きくなるが、後退側回転翼では小さくなる。したがって、後退側回転翼のピッチを大きくする必要がある。しかし、ピッチ角が限界を超えれば失速をおこす。前進側の回転翼は、ことに翼端部で相対風速が非常に大きくなり、音速に近づいて衝撃波を発生して効率の低下、抵抗の増大、失速などを生じることも考えられるが、実際には後退側回転翼の失速のほうが早くおこるのが普通である。どちらにしてもこのような理由で、ヘリコプターの前進速度は時速400キロメートル程度が限界とされている。搭載量は、当初は総重量の30%程度であったが、タービンエンジンの採用によって現在では50%程度にまで増大している。そのほかは一般に固定翼機に比べると、構造が複雑で振動が多く、操縦がむずかしい、機体価格が高いなどの欠点がある。しかし、設計と製作の技術的進歩、新しい機体材料の開発、自動安定・自動操縦装置、全天候飛行用の航法装備の充実などによって、急速に改善されつつある。

[落合一夫]

用途

民間用としては、空中測量、写真撮影、人員・物資輸送、消火救難、報道宣伝、連絡監視などの作業が主体であるが、日本では狭い農地や森林など限定された地域への薬剤散布作業にも使われ、その成果が諸外国から注目されている。定期旅客輸送も一部で行われ、限定された期間ならば採算がとれるようになっている。軍用では、指揮連絡、偵察、武器・兵員輸送、救難活動のほか、特殊装備と武装を施して敵潜水艦の捜索・攻撃に用いられ、また、レーダーや強力な武器を搭載し、被弾を避けるために胴体を極力細くした地上攻撃用ヘリコプターは、機敏な機動力によって局地戦に欠くことのできない兵器となっている。日本では国土が狭いうえ、複雑な地形をもつ関係で、民間用としてかなりのヘリコプターが使われているが、世界的には軍用ヘリコプターが使用機数の大半を占めている。

[落合一夫]

将来

固定翼機に比べて、垂直離着陸、空中停止、左右および後退飛行ができる利点があるが、最大速度、上昇限度、航続距離でまだ劣っている。そこで、この欠点を補うため巡航用の小型固定翼や補助推進装置を取り付けた複合ヘリコプターが試作されており、時速500キロメートルを実現している。さらに高速を目ざし、巡航中は回転翼を折り畳んだり収納してしまう方式も考えられている。なお、ヘリコプターは滑走距離なしで垂直に離着陸するが、回転翼円板を傾けることによって推進力を得るので、VTOL(ブイトール)機には属さないことになっている。

[落合一夫]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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