改訂新版 世界大百科事典 「揚州十日記」の意味・わかりやすい解説
揚州十日記 (ようしゅうじゅうじつき)
Yáng zhōu shí rì jì
中国,清初の王秀楚の著。1巻。異彩を放つ記録文学であり,歴史資料でもある。1645年(順治2)予親王トド(多鐸)麾下(きか)の清軍は,揚州で史可法の明の残軍の抵抗にあい,これを陥落させた後,大規模な略奪と殺戮を行った。陰暦4月25日から5月5日まで,その渦中にあった著者がみずからの生々しい体験を記録したのが本書であり,死者80万という異常な状況が実感される。1808年(文化5)以前に日本にも将来,刊行された。また清末の排満思想鼓吹に役立った。松枝茂夫訳とともに佐藤春夫訳も有名である。なお朱子素の《嘉定屠城紀略》もこの時期,清軍の嘉定における残虐行為の記録で,本書とともに明末・清初鼎革期の歴史資料として知られる。
執筆者:梅原 郁
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報