…連作歌曲は,元来は小形式の作品である歌曲を花束のように編んで音楽的なサイクルとしてまとめたもので,シューベルトの《美しい水車小屋の娘》や《冬の旅》に始まり,ロマン派歌曲に豊かな色どりを添えた。ウォルフ以後のドイツ歌曲は,R.シュトラウスの感覚的に洗練された心理的作風やマーラーによる管弦楽を伴奏としたシンフォニックなリートへと進み,20世紀に入るとシュプレヒシュティンメ(話す声,すなわち語るように歌う技法)を用いたシェーンベルクの《月に憑かれたピエロ》に見られるように,しだいに抒情的な歌唱様式を抜け出して表現主義的傾向を強めるようになった。 ドイツ以外の国では,甘美でノスタルジックなロマンスの流れを汲みながら,近代にいたってデュパルク,ショーソン,フォーレ,ドビュッシー,ラベルらの手で完成されたフランスのメロディの芸術が重要である。…
… また,《古着屋》の主役ピエロの持つもう一つの側面,すなわち〈犯罪者のピエロ〉は,不安な潜在意識につき動かされる近代人のグロテスクさを持ち,そこにはドイツの劇作家G.ビュヒナーの《ボイツェック》などとの共通点が見いだせる。作曲家A.シェーンベルクの《ピエロ・リュネール(月に憑かれたピエロ)》(1912)は,こうした世紀末の時代における病的な死の想念にとりつかれたピエロ像を描いて,ドビュローの〈白いピエロ〉に対して,〈黒いピエロ〉ともいうべき病める精神の道化を創造している。 T.ゴーティエも,みずからピエロを主人公とした劇作《死後のピエロ》を書き,当時(19世紀中葉)の演劇の主流だったメロドラマやF.ポンサール風の悲劇よりも,バレエやパントマイムを評価した。…
※「月に憑かれたピエロ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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