日本大百科全書(ニッポニカ) 「クノー」の意味・わかりやすい解説
クノー(Raymond Queneau)
くのー
Raymond Queneau
(1903―1976)
フランスの小説家、詩人。パリ大学で哲学を専攻したあと、シュルレアリスムの運動に加盟したが、1929年これと決別。以後、文学と言語の新しいあり方を目ざす独自の探究に入ることになった。数学的な構成原理に従う処女小説『はまむぎ』(1933)は、一方に世界認識の原理を探るとともに、言語表現の可能性を追求し、小説の観念を根本的に変えようとした重要な作品である。映画的手法を駆使した『わが友ピエロ』(1942)、時間と空間を拡大した『聖グラングラン祭』(1948)などはいずれもそうした方向に沿っての試みであるが、クノーの文学が一般に注目されるようになったのは、俗語をふんだんに取り入れたポピュリスト的作品『地下鉄のザジ』(1959。翌年ルイ・マル監督により映画化)以後であり、その真価が認められるようになったのは、ヌーボー・ロマンの時代になってからである。その後のクノーは、歴史のなかを自由に駆け回る『青い花』(1965)、会話形式の軽妙な作品『イカロスの飛行』(1968)によって、新しい小説形式への挑戦を続けた。詩人としては、『柏(かしわ)と犬』(1937)、『運命の瞬間』(1948)、『一千兆の詩』(1961)などによって同じく言語的冒険を試みるとともに、日常的な雰囲気を醸し出している。ほかに『文体練習』(1947)、評論集『棒・数字・文字』(1950)などがある。
[瀧田文彦]
『菅野昭正訳『わが友ピエロ』(1965・新潮社)』▽『瀧田文彦訳『青い花』(1969・筑摩書房)』
クノー(Heinrich Cunow)
くのー
Heinrich Cunow
(1862―1936)
ドイツの経済史家、社会学者、人類学者。メクレンブルクのシュウェーリンで生まれる。初めは商業に従事したが、独学で社会主義を研究し、1917年から1923年にかけて、ドイツ社会民主党の機関紙『ノイエ・ツァイト』(新時代)の編集者になった。1917年のロシア革命のときにはボリシェビキに反対し、カウツキーらとともに修正派マルクス主義の代表者とみなされている。第一次世界大戦後のドイツ革命でできたワイマール共和国のもとで、1919年にベルリン大学の国家学の教授になり、マルクス主義の立場から経済史に裏づけられた特異な国家学を講じたが、のちにナチスに追われた。彼の歴史、社会理論は、自然的、地理的条件を重視するもので、それだけマルクス主義における社会的条件の強調が希薄になっているといわれる。主著としては『マルクスの歴史・社会および国家理論』2巻(1920~1921)、『一般経済史』4巻(1926~1931)などがある。
[河村 望]