日本大百科全書(ニッポニカ) 「有栖川錦」の意味・わかりやすい解説
有栖川錦
ありすがわにしき
名物裂(めいぶつぎれ)の一つ。直線的な幾何学構成と極度に様式化された動物文様、黒・臙脂(えんじ)・縹(はなだ)・オレンジ色などの力強い色調、絵緯(えぬき)糸(文様を織り出す緯糸(よこいと))を地埋めにした重厚な織りの風合いなどがこの錦の特色である。素材は絹、地組織は平地、文様は縫取り織によるもので、地緯(じぬき)一越(こし)おきに織り入れられた絵緯糸を地搦(じがら)みでかっちり押さえて織り出す。文様には幾種かがあり、雲竜文(うんりゅうもん)を段に織り出すもの、麒麟(きりん)を配した角切(すみき)り方形を互(ぐ)の目に表すもの、また、菱格子(ひしごうし)のなかに天馬あるいは鳥文を配したものなどがある。なお『古今名物類聚(るいじゅう)』(1791)にみるこの名の錦は、縞(しま)と幾何学文様、『和漢錦繍(きんしゅう)一覧』(1804)には「ツルモヨウ(鶴文様)」と記されている。前田家伝来、現在前田育徳会所蔵の有栖川錦には両織耳をそろえたものが3種あり、これらによると織幅はいずれも37~38センチメートル前後の小幅のものであることがわかる。中国明(みん)代中期の作と考えられているが、製作地は不明。ただし今日知られる湖南(こなん/フーナン)省湘西(しょうせい)地方の伝統的な織文様に、有栖川錦の文様にたいへんよく似たものが残っていることから、これらの地方との関連が想起される。名称の由来は不詳。
[小笠原小枝]