日本大百科全書(ニッポニカ) 「有為・無為」の意味・わかりやすい解説
有為・無為
ういむい
仏教用語。有為(サンスクリット語でサンスクリタSaskta)とは本来「つくられたもの」、無為(アサンスクリタasaskta)とは「つくられないもの」の意。すなわち、有為とは時間に制約されつねに移り変わるものつまり無常なるものであり、無為とは常なるものの意である。すでに原始仏教聖典でこれらの語は用いられていたが、その概念を明確にしたのは小乗仏教(部派仏教)中の説一切有部(せついっさいうぶ)であった。有部によれば人間の身心を含むいっさいの森羅万象(しんらばんしょう)を存在せしめる要素は約75の法(ダルマ)である。この一切法のうち72法は生滅する無常なるものであり、これらが有為法とよばれる。残りの3法は無始以来生滅変化しない常なるものであり、無為法と称される。三無為法とは虚空(こくう)(アーカーシャākāśa。その中で物質が自由に運行できる場としての空間)、択滅(ちゃくめつ)(プラティサンキヤー・ニローダpratisakhyā-nirodha。涅槃(ねはん)、悟り)、非択滅(アプラティサンキヤー・ニローダapratisakhyā-nirodha。縁(えん)が欠けることで永遠に生じない法)の三つである。説一切有部はこの三無為法を想定することによって、無常なるこの世界(有為法)を明確に説明せんとしたということができる。いろは歌「うゐ(い)の奥山けふ越ゑ(え)て」の「うゐ」はこの有為であり、つねに変化してやまない迷いの世界を表している。
[加藤純章]