涅槃(読み)ねはん(英語表記)nirvāṇa

翻訳|nirvana

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

涅槃
ねはん
nirvāṇa

仏教では究極的目標である永遠の平和,最高の喜び,安楽の世界を意味する。本来は風が炎を吹消すことを意味し,自己中心的な欲望である煩悩や執着の炎を滅した状態をさす。このような状態は「涅槃寂静」と呼ばれて初期仏教の根本的教えの一つであったが,人が生命または肉体をもつかぎり完全な涅槃の状態は達成されないとして,これを「有余 (依) 涅槃」とし,死後に実現される完全な状態を「無余 (依) 涅槃」と呼び,釈尊の死を涅槃に入るというようになった。またジャイナ教では仏教と同様に永遠の安楽な世界,ベーダーンタ哲学ではブラフマンとの合一を意味する。

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百科事典マイペディアの解説

涅槃【ねはん】

サンスクリットのニルバーナの訳。原義は吹き消すこと,また消えた状態。転じて煩悩(ぼんのう)の火が消え,智慧が完成する悟りの境地をいう。仏教の最終目的。漢訳では滅度寂滅円寂など。涅槃の内容は大乗・小乗で種々に説く。また釈迦入滅のこと。
→関連項目解脱諸法実相得度涅槃図八正道彼岸会菩提無漏

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世界大百科事典 第2版の解説

ねはん【涅槃】

サンスクリットのニルバーナnirvāṇaをなまった俗語からの音写語と考えられ,そのほか泥洹(ないおん),泥曰(ないおつ),などとも表記される。〈吹き消された〉ことという意味に起源する語で,本来は生命の火が吹き消された状態,すなわち〈死〉を意味するので,滅度(めつど),寂滅(じやくめつ)などと訳された。この語は,仏教では最初釈迦の死を意味したところから,後になって〈迷いの燃えさかる火を完全に消し,悟りに入った境地〉という解釈がつけ加えられた。

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大辞林 第三版の解説

ねはん【涅槃】

nirvāna 吹き消すこと、あるいは吹き消された状態の意〕
〘仏〙
あらゆる煩悩ぼんのうが消滅し、苦しみを離れた安らぎの境地。究極の理想の境地。悟りの世界。泥洹ないおん。ニルバーナ。寂滅。
死ぬこと。また、死。入寂にゆうじやく。入滅。一般に釈迦の死をいう。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

涅槃
ねはん

仏教術語。智慧(ちえ)を磨き修行を積んで、迷いや煩悩(ぼんのう)や執着を断ち切り、悟りに到達して、いっさいの苦・束縛(そくばく)・輪廻(りんね)から解放された最高の境地をいう。パーリ語のニッバーナnibbnaの音写、サンスクリット語ではニルバーナnirvaという。原語は「(炎が)消えて滅びた(状態)」を意味し、ちょうど風が炎を吹き消すように、燃えている煩悩の火が悟りによって消滅し、すべての苦悩のなくなった状態をさす。そのとき、寂静(じゃくじょう)な最上の安楽の境地が実現する(「涅槃寂静」という)。したがって「永遠の平安」「完全な平和」「絶対の安らぎ」とも訳す。釈迦(しゃか)がこれを体得して人々に説き、また仏教と同時代におこり栄えたジャイナ教も、この語を同様の意味で用いた。
 仏教の発展とともに、一種の分析が涅槃にも加えられ、修行者がどれほど努力しても、到達しうる境地は、この世に生存して肉体を維持している限り、不完全な涅槃(有余(うよ)または有余依(うよえ)涅槃)であって、死後に初めて完全な涅槃(無余または無余依涅槃)に至ると考えられた。大乗仏教においては、涅槃という特別の境地が実在するという考えを排し、涅槃そのものは有でも無でもなく空(くう)であり、日常の生活のなかにその実現を目ざした(生死即(しょうじそく)涅槃)。
 なお、釈迦の入滅(肉体の死)はとくに「完全な涅槃」(般涅槃(はつねはん)、パリニッバーナparinibbna、パリニルバーナparinirva)とよび、普通の人の死と区別される。[三枝充悳]

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精選版 日本国語大辞典の解説

ねはん【涅槃】

(nirvāṇa の音訳。「泥洹(ないおん)」「泥曰(ないおつ)」とも音訳し、「滅度」「寂滅」などと訳する) 仏語。
[1] 〘名〙
① (━する) すべての煩悩の火がふきけされて、悟りの智慧を完成した境地。迷いや悩みを離れた安らぎの境地。また、その境地に達すること。解脱。
※知恩院本上宮聖徳法王帝説(917‐1050頃か)「上宮王の師高麗の慧慈法師、王に命うく能く悟り涅槃常住の五種仏性之理」 〔南本涅槃経‐四〕
② (━する) 仏、とくに釈迦の入滅をいう。
※霊異記(810‐824)下拝「仏涅槃したまひしより以来」
③ 「ねはんえ(涅槃会)」の略。《季・春》 〔俳諧・誹諧初学抄(1641)〕
④ (無我の境地に入るところから) 男女の性行為。また、その快楽の絶頂。
※仮名草子・竹斎(1621‐23)上「夕さり参りて、上人様と枕を竝べて、ねはん成べし」
※久安百首(1150)雑上「涅槃 をしむかな月のみかほも影きえてつるの林にけぶりたえけん〈藤原顕広〉」

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世界大百科事典内の涅槃の言及

【解脱】より

…そのためには,この世の〈苦〉の真相とその克服法についての真実(サティヤsatya,〈諦(たい)〉)の知(ビドゥヤーvidyā,〈明(みよう)〉)を得なければならないとする。その真実の知を仏教では悟り(ボーディbodhi,菩提(ぼだい),覚(かく))といい,それを得た人をブッダbuddha(仏陀,覚者)といい,悟りの境地をニルバーナnirvāṇa(涅槃(ねはん))という。 仏教以降に出た諸派の解脱観については,たとえばサーンキヤ学派,ヨーガ学派は,自己の本体であるプルシャpuruṣa(純粋精神)を,身体(ふつうの意味での意識も含む)や外界など物質的なものから完全に区別して知ること(区別知,ビベーカviveka)によって,純粋精神が物質的なものから完全に孤立すること(独存(どくそん),カイバルヤkaivalya)が解脱であるとし,ベーダーンタ学派は,自己の本体であるアートマンātman(我(が))が実は宇宙の本体であるブラフマンbrahman(梵)と同一であると明らかに知ること(〈明〉)によって解脱が得られるとするが,いずれにしても,真実の知によって解脱が得られるとする点では,基本的に上述の仏教の考え方と軌を一にする。…

【ジャイナ教】より

…業を引きずり苦しみの輪廻世界をさまよう霊魂がやすらぎの境地(ニルバーナnirvāṇa。〈涅槃〉)あるいは解脱(モークシャmokṣa)を得ようと望むならば,すでに付着した業物質の除滅(ニルジャラーnirjarā)と新たな業物質の流入の防止(サンバラsaṃvara)が必要となる。業が完全に取り除かれたときにのみ,霊魂は本来の上昇性を取り戻して一気に世界の頂きにまで達し,そこで完成者として永遠に休息することができる。…

【仏教】より

…釈迦はこうして45年間,教化に努めた後,80歳にしてクシナガラの地で死去した。これを入滅(般涅槃(はつねはん))という。遺骸は信者たちの手で火葬され,遺骨は信者たちに分けられ,塔(ストゥーパ,舎利塔,仏塔)にまつられた。…

※「涅槃」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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