無為(読み)むい(英語表記)wu-wei

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

無為
むい
wu-wei

中国哲学において,おもに道家が唱える人間や政治の理想的あり方をいう。儒家は,自分自身の修養から出発して国家全体の統治にまで及ぶ目的を掲げる。これに対して,老荘道家は,それを否定し「無為自然」によってこそ世の中はすべて治まる,と説いた。「無為」とは,まったく何もしないという意味ではなく,不自然な行為や人工的作為はしない,ということである。この処世観は,中国人の思想に大きな影響を与えた。

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デジタル大辞泉の解説

ぶ‐い〔‐ヰ〕【無為】

[名・形動]
自然にまかせて、人為を加えないこと。また、そのさま。むい。
「家内も―にして化すとは何よりなり」〈紅葉・二人女房〉
平穏無事なこと。また、そのさま。
「―なる人の家より(死体ヲ)出さんこと、あるべきにあらず」〈宇治拾遺・二〉
[名]むい(無為)2

む‐い〔‐ヰ〕【無為】

[名・形動]
何もしないでぶらぶらしていること。また、そのさま。「せっかくの休日を無為に過ごす」「無為な毎日」「無為無策」
自然のままに任せて、手を加えないこと。作為のないこと。また、そのさま。ぶい。
「日頃忘れていたゆったりした―の歓喜が」〈宮本伸子
《〈梵〉asaṃskṛtaの訳》仏語。人為的につくられたものでないもの。因果の関係を離れ、生滅変化しない永遠絶対の真実。真理。⇔有為(うい)

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世界大百科事典 第2版の解説

むい【無為 wú wéi】

道家思想の根本概念の一つ。道家思想では,一切万物を生成消滅させながらそれ自身は生滅を超えた超感覚的実在ないしは天地自然の理法としての〈道〉のあり方を体得することを窮極の目的とするが,その〈道〉のあり方を示すのが〈無為〉という概念である。〈無為〉とは人為の否定を意味するが,けっして何もしないということではない。それはいっさいの人間的営為を〈偽〉として否定したうえで,天地自然の理法にそのまましたがった真の〈為〉を実現することであり,正確には〈無為の為〉なのである。

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大辞林 第三版の解説

ぶい【無為】

( 名 ・形動ナリ )
むい(無為)」に同じ。 「 -を業とし、無事を事とす/太平記 1
ぶい(無異)」に同じ。 「天下久しく-なるまじき表示なりけり/太平記 12
〘仏〙 「むい(無為)」に同じ。 「恩を棄てて-に入る道も/太平記 10
[句項目] 無為にして化す

むい【無為】

( 名 ・形動 ) [文] ナリ 
あるがままにして作為しない・こと(さま)。ぶい。 「 -渾沌こんとんにして人事少なき世に在ありては/文明論之概略 諭吉」 → 無為自然
何もせずぶらぶらしている・こと(さま)。 「 -徒食」 「 -無策」 「毎日を-に過ごす」 「 -な日常生活」
〘仏〙 因果関係に支配される世界を超えて、絶対に生滅変化することのないもの。すなわち、涅槃ねはん・真如しんによといった仏教の絶対的真理のこと。無為法。ぶい。 ⇔ 有為うい
[句項目] 無為にして化す

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

無為
むい

中国古代の道家(どうか)思想の術語。処世のうえでことさらな作為をしないこと、自然にあるがままのふるまいでいること。世事にとらわれ私欲にひかれて、人間的なこざかしい知恵を巡らすところに、かえって人間の不幸が生まれると考え、現象の奥にある根源的な「道(どう)」の立場に立ち返って、その絶対的な理法性に拠(よ)り従い(因循(いんじゅん))、人間的なさかしらを捨てた自然なあり方に従うことによって、個人的な平安と政治的な成功が得られるという。「無為であればすべてが成し遂げられる」「為政者が無為であれば民は自(おの)ずからに治まる」などといわれる。「無為を為す」ということばもあるように、文字どおり何もしないことではなく、ことさらなしわざの跡を残さないあり方をすることである。「自然」「無知」「無欲」などの語と連用され、また人間を超えた「道」や「天」の働きとして、無私の公的な性格において理想化して説かれる。漢初に流行した黄老(こうろう)思想は無為の政術であった。[金谷 治]

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精選版 日本国語大辞典の解説

ぶ‐い ‥ヰ【無為】

〘名〙
① (形動) 自然のままにして作為しないこと。あるがままにして少しも干渉しないこと。また、そのさま。むい。
※宇治拾遺(1221頃)一〇「ぶゐに事いで来ば、わが親たちいかにおはせんと」
② (形動) 変わりなく平穏なこと。おだやかなこと。また、そのさま。無事。
※増鏡(1368‐76頃)一四「あらき夷どもの心にも、いとかたじけなき事となごみて、ぶいなるべく奏しけり」
③ (形動) 行為を無駄にすること。なにもしないこと。つながりがなくなること。また、そのさま。
※仮名草子・片仮名本因果物語(1661)下「右の気減り坐禅を止ければ。来迎もやみ。無為(ブイ)になりたり」
太平記(14C後)一〇「幼少より釈門に至る身ならば、恩を棄て無為(ブイ)に入る道も然なるべし」
[語誌](1)読みは、「高山寺本論語」(鎌倉初)に「無為(フヰ)」、「妙一本仮名書き法華経」(鎌倉中)に「有為無為(ムヰ)」と加点されているところから、基本的には漢籍系が漢音「ぶゐ」、仏典系が呉音「むゐ」であったらしい。
(2)一方、古辞書類では漢音読みが「色葉字類抄」を始めとして中・近世の節用集に広く見られる一方、呉音読みは「文明本節用集」に「無為(ムイ) 无常」とあるのみで、同書でも他では漢音の読みである。このように、少なくとも中世においては漢音読みの方が優勢であったと考えられる。

む‐い ‥ヰ【無為】

〘名〙
① (形動) 自然にまかせて、作為するところのないこと。また、そのさま。ぶい。
※懐風藻(751)望雪〈紀古麻呂〉「無為聖徳重寸陰、有道神功軽球琳
※集義和書(1676頃)七「無為にして天下治まりしは、天地と徳を合せたまふ故なり」 〔老子‐二章〕
② (形動) 平穏無事であること。また、そのさま。ぶい。
※家伝(760頃)下「昔聖主賢臣遷都此地、郷童野老共称无為、携手巡行、遊歌大路」
※東野州聞書(1455頃)三「常光院光臨有り、天下の無為なる事を祝ひ申しける也」
仏語。因縁によって作られたものでなく、生滅変化を離れたもの。常住絶対の真実。さとり。無為法無作(むさ)。ぶい。有為(うい)に対していう。
※今昔(1120頃か)一「永く无為を得て解脱の岸に至れりと」 〔無量寿経‐上〕
④ (形動) 無事におさまること。関係や被害が及ばないですむこと。また、そのさま。
※教興卿記‐応永二〇年(1413)七月「鷹司東洞院出納宿所焼失了。為近所之間雖仰天、属無為之間珍重々々」
⑤ (形動) とりたてて指摘する欠点がないこと。また、そのさま。
※小早川家文書‐小早川家証文・(年未詳)(室町)一〇月二日・小早川弘景置文写「年よりも心立もおとなしく無為成者にて候間、よき御たからにて候」
⑥ (形動) 何もしないこと。何もしないでぶらぶらしていること。また、そのさま。
※古今(905‐914)真名序「人之在世、不無為、思慮易遷、哀楽相変」
※文明論之概略(1875)〈福沢諭吉〉二「富商豪農の無為にして食ふ者も其産を奪はざる可らず」
⑦ あじけないこと。趣がないこと。
※六如庵詩鈔‐二編(1797)五・暮春与伴蕎渓春蘭州遊兎道「惟看眼前東逝水、無為墓上征西名」
⑧ 医学で、精神病の症状の一つ。一日中何もせず、しかも退屈しない状態。活動性の強度に減退した状態。

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