改訂新版 世界大百科事典 「歌枕名寄」の意味・わかりやすい解説
歌枕名寄 (うたまくらなよせ)
中世の歌学書。全国を五畿七道,68ヵ国に区分して,当該国の歌枕を掲出し,その歌枕を詠みこんだ証歌を,《万葉集》,勅撰集,私家集,私撰集から広く引き出して列挙したもの。成立年代は《新後撰集》(1303)の前後で,編者は〈乞食活計之客澄月〉と署名があるが,〈澄月〉その人の伝はわからない。中世には歌枕とその証歌を類聚して作歌の便をはかったいわゆる歌枕撰書がいくつか編纂されたが,それらのうち,本書は最大(38巻,6000余首)で,よく整備されたものである。また江戸時代,1659年に版行され,広く流布した。相当,形のちがう諸本があるが,澄月編纂の形に最も近いのは細川幽斎自筆本(永青文庫蔵)である。所引の証歌は勅撰集にせよ私家集にせよ,現在の流布本とは形がちがうものが多く,その方面の文献学的研究に資するところは大きい。
→歌枕
執筆者:奥村 恒哉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報